しかし、その「改正」された内容には、多くの法律関係者や生活保護の現場にいる人々から、疑問と怒りの声があがっている。
改正案が閣議決定される2日前の5月15日13時から、東京・霞ヶ関の厚生労働記者会において、生活保護全国問題対策全国会議(代表幹事:弁護士・尾藤廣喜氏)による、「『生活保護法改正法案』の撤回・廃案を求める緊急声明」の記者会見が開かれた。そして、今回の「改正法案」について、さまざまな問題点が指摘された。
現在、生活保護申請の窓口では、いわゆる「水際作戦」というものが横行している。福祉事務所の窓口で、申請に来た人たちを事実上拒絶するというやり方である。これによって保護が必要な困窮者が申請できないとの批判が多い。
しかも、この水際作戦というもの自体、申請する権利の侵害に該当するため違法である。にもかかわらず、不正受給の防止などを口実に、この違法行為が全国各地で続けられているのが現状である。
ところが、今回の改正案では、現行よりもさらに申請を困難にするとしか思えないような変更が数多く見つかるのである。
●口頭での申請は拒絶?
例えば、従来は生活保護の申請は口頭でも認められており、それを裏付ける裁判所の判例もある。しかし、改正案では申請時の申請書ならびに添付書類の提出を要件化している。このため、口頭での申請が認められる可能性が格段に低くなり、申請がますます拒絶される可能性が高くなるとの指摘が、法律家からあがっている。生活困窮者の中には精神的および肉体的に相当に疲へいしていて、数多くの書類を用意することに大変な負担がかかる場合が少なくない。
しかも、必要とされる添付書類の数は決して少なくはない。例えば、預金通帳や賃貸契約書などの家賃を証明する書類のほか、退職した場合には元勤務先の給与明細、その他、資産等についての書類も提出しなければならない。しかし、保護を必要とする人の場合、家賃滞納で住居の強制退出を余儀なくされたり、生活費の枯渇から野宿者すなわちホームレス状態になってしまって、そのために所持品の盗難や紛失などで必要書類そのものが作成できなくなったりというケースも実際に起きている。こうした現状を考えると、今回の改正案は申請のハードルを高くするような変更であるとしか考えられず、違法であるはずの水際作戦を合法化するような内容といわざるを得ない。
●欧米諸国より遅れる生活困窮者支援
ほかにも、親族など扶養義務者に対する調査権限の強化なども指摘されている。申請窓口で「親類の勤め先や収入なども調べます」「実家や兄弟にもいろいろと連絡しますが、よろしいですか」などと職員から告げられれば、圧力に感じて申請そのものをやめてしまうケースも十分に考えられるし、実際にそのようにして水際作戦が行われている実態もある。
これらの指摘に対して、厚生労働省は「これまで実施していたことを文章にしただけであり、運用は従来と変わらない」「これからも口頭での申請は認める」などと主張する。しかし、そうした厚労省側の発言には「水際作戦の合法化を狙ったものだ」などの批判と怒りの声が噴出している。
そもそも、現状において保護が必要とみられる人をどれだけ生活保護制度がカバーしているかという、いわゆる「捕捉率」をみると、日本ではどれだけ多く見積もっても20パーセントに満たない。イギリスやドイツなどの欧米諸国の捕捉率が80パーセントを超えているのに比べれば非常に低い数字であり、80パーセント以上の生活困窮者が放置されていることとなる。
また、厚労省や一部国会議員等が生活保護の不正受給を問題点として指摘する。しかし、日本における現在の生活保護不正受給は、全体のわずか0.35パーセントから、せいぜい0.5パーセントでしかない。