「難しくてよくわからない」「とりあえず入っておけば安心」「CMでよくやっている会社が信頼できそう」――生命保険について、このような印象を持っている人は少なくないはずだ。
しかし、「病気」や「死」という非常にセンシティブな問題が絡むがゆえに消費者は非合理的な選択をしてしまうことが多い生命保険。では、実際に私たちはどんな行動をとってしまっているのだろうか。それを描き出したのが『生命保険の嘘 「安心料」はまやかしだ』(小学館/刊)だ。
著者は約10年間、大手生命保険会社で営業を経験し、その後、保険代理店、一般社団法人バトン「保険相談室」と、保険業界を渡り歩いてきた後田亨氏と、個人資産形成や年金制度を専門とするコンサルタントで行動経済学会会員でもある大江英樹氏。本書ではその2人が、生命保険を行動経済学の視点で斬っていき、消費者がいかに非合理的な行動をとってしまっているかを明らかにしている。
今回はそのお2人をお招きして、インタビューを敢行。前編では、私たちが生命保険について初めて触れる場所であろう「テレビCM」の見方について語っていただいた。そこから分かったことは、思考停止に陥らせるテレビCMの「仕掛け」だった。
(新刊JP編集部)
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――私たちが生命保険について知るときに、テレビCMの影響はとても大きいと思います。各社のテレビCMを見ると、芸能人やアスリートをフィーチャーしたり、家族をテーマにしているCMが多いように感じたのですが、生命保険会社はテレビCMに対してどのような戦略を練っているのですか?
後田 ひとつあげるとするならば、本質を伝えない工夫をしていると感じます。家族の絆が素晴らしい、スポーツ選手が夢を追いかける姿が美しい。そういったことと保険が視聴者にとって良い買い物であるかというのは全く別の話ですよね。つまり、問題がすり替えられているんです。
生命保険は、先にお金を払って、何かあったときのためのお金を準備する手段です。ということは、払うお金にふさわしい価値があるのかというところが焦点になるはずですが、『絆』『安心』などの言葉に隠れて、それらがどこかに行ってしまいがちになると思います。私たちが安心を求めることで見えなくなっていること、例えば、保険会社の取り分、医療保険等の支払い実績、コストとパフォーマンスの両方がほとんど開示されていないのです。突き詰めれば、『悪いようにはしませんよ』と言ってくる怪しい勧誘の人と同じですよね(笑)。
家族のために生命保険に加入するなど、『誰かのために』という想いは必ず絡むものですし、それは否定しません。でも、そういう想いを持って、大金を投じるからこそ、自分が払っているお金がどのように使われているのかを知りたいですよね。
――大江さんは本書の中で、行動経済学の視点から生命保険のカラクリを暴いていらっしゃいます。テレビCMは視聴者の感情を揺さぶって本質を見えなくしているという後田さんのご指摘についていかがですか?
大江 まさしくそうですね。大前提として、生命保険の商品そのものがテレビCMに馴染まないんです。生命保険に限らず、金融商品全体がそうなのですが。
テレビCMで向いているのは、形があるもの。具体的にイメージできるから、好みのものを選ぶことができるわけですよね。ところが、金融商品は形がなくて抽象的なものなので、それを15秒や30秒のスポットで説明しようとすること自体が無理なんです。生命保険会社や広告会社は、それを逆手に取っていると言えます。今、後田さんが話したテーマ、コストパフォーマンスですとか、医療保険の支払い実績というのは、一つ一つしっかり説明しようとすると、1時間以上はかかるはずです。
また、じっくり相談すると、保険会社にとって都合の悪い部分が出てくるかもしれません。でも、あまりそういうことを知ってほしくない。要するに、複雑なところを考えてもらいたくないから、家族や未来といった、情に訴えるテーマに行かざるを得ないんです。