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徳岡晃一郎「世代を超えたイノベーションのために」(2月5日)

深夜残業でがむしゃらに働く美学、無意味な自己陶酔?小さな仕事でやりがい感じる、の罠

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「Thinkstock」より
 前回連載では知を創造する(イノベーションを起こす)基本的なプロセス、知識創造理論のSECI(セキ)モデルを紹介したが、それを自分のキャリア形成に当てはめるとどうなるか。それが「SECIキャリア」モデルだ。いわば知識創造型人生を歩み、知識創造企業づくりに貢献する生き方といえよう。

 まずSECIモデルのSである「Socialization」(暗黙知を吸収するフェーズ)だ。これが特に重要なのが、キャリアのスタートラインである20代だ。この年代はいわば「時分の花」を活用できる時代。若さゆえの力、美しさ、エネルギーに満ち溢れている。吸収力や柔軟性にも優れて、失敗してもすぐにそれが肥やしになる。

 そんなキャリアのスタートラインでは、力任せに無限の力を発揮できる。がむしゃらに働き、深夜まで残業もできる。すべてが新しく、勉強になる。とことんやって自信もついてくる。しかしそれに酔ってしまう人も出てくる。一生懸命がんばることで身につけるのは「がんばり癖」になりかねない。ひたすら働く美学に酔ってしまうことは、いわば小さい仕事に埋没するだけに終わってしまいかねない。それが「時分の花」の罠だ。

 むしろ若さに内在する体力は、小さな仕事をたくさんやって得られる達成感のために使うのではなく、現場に身を置き、幅広くかつ高質な知を吸収する自分なりの方法論を見つけ出すために使うべきだ。その模索のために仕事に没頭するわけだ。いわばこれからの長い人生で自分の枠を広げ続けるための、自分なりの基盤となる仕事術という暗黙知をいろいろな体験から吸収(Socialization)する時期なのだ。

 年を取ってしまうと、「今さらできないこと」が増えていく。やりたくても体が動かない。そんな制約のない20代に重要なのは、がむしゃらにがんばってやりがいを感じることではない。いろいろな直接体験をしたり、いろいろな人に出会ったりして、現場で知を吸収する喜びを感じ、自分の行動範囲を広げる素地をつくっておくことこそがんばりの目的であり、重要だ。忙しさに埋没せず、「がんばりは手段だ」という認識が必要だ。そうしてこそ、直接体験やフェイストゥフェイスの出会いから学ぶ力、すなわち「現場力」というイノベーションの基盤を人生の早期に構築できる。

●異質の知との交差点を埋め込むライフスタイルをつくる


 また、いろいろなことをやる、出会いをつくるというのは、本業に閉じこもらないということでもあり、がんばり癖の反対である「シャドーワークの癖」を体に染み込ませることでもある。社外の人たちと付き合う、勉強会に出る、留学する、担当業務外の勉強をするなどなど。知を創造するイノベーターになっていく、そんなキャリアをつくっていくには、20代のうちに目の前の仕事に閉じこもらず、異質の知との交差点を埋め込むライフスタイルをつくってしまうことが肝心なのだ。

 このような素地を作るスタイル、すなわち自分なりの身体知、暗黙知をしっかり身に着ける。それが20代のソーシャリゼーションが重要な所以だ。それを明確に意識して日々を送るのがSECIキャリア的生き方なのである。

 同時に、経験の幅や出会いを広げるためには、問題意識を持つ思考習慣、問題意識を持った読書習慣、問題意識について自分の考えをまとめる記述習慣(日記やブログ、書評など)も大切だ。

 自分の問題意識を明確にして深めることによってこそ、好奇心や発信力が増すからだ。仕事を覚えるのに忙しい20代ではあるが、若い体力があればカバーできるし、やり続けることで、一生続くライフスタイルにしていくことができる。20代はイノベーターになるための生き方という暗黙知を吸収することを目指したい。

 次回連載では、30代で重要なSECIのE。すなわち「Externalization」(エクスターナリゼーション)について考えたい。
(文=徳岡晃一郎/経営コンサルタント、多摩大学大学院教授)