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転職サイト、エージェント…間違いだらけの転職・採用活動 注目の“直接採用”とは

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プライスウォーターハウスクーパース人事部マネージャー・山岸雅己氏(撮影=山本宏樹)
 企業の採用担当者の間で、転職を検討している人へのDM(ダイレクトメール)は役に立たないことは今や常識になっている。DMへの返信率は数%程度であり、転職サイトに登録された職務経歴書を精査して採用候補者にメールを送るには手間がかかりすぎるし、返信された中から面接対象者を選別して採用に至る確率を計算すると、きわめて非効率だ。

 そこで企業は転職エージェントを活用するのが一般的だが、結果としてエージェントに任せっきりになってしまい、なかなか思うような採用をできないケースが多いのが実情である。

 そんな中、企業が採用したいと思える人材に直接コンタクトするダイレクトリクルーティングが注目を集めている。今回はダイレクトリクルーティングに積極的に取り組んでいる大手コンサルティング会社プライスウォーターハウスクーパース(以下、PwC)人事部マネージャー・山岸雅己氏に、

「ダイレクトリクルーティングの具体的な方法と効果」
「PwC独自の採用に関する取り組み」
「現在の人材採用をめぐる動向」

などについて話を聞いた。

――貴社がダイレクトリクルーティングに着手した経緯について、お聞かせください。

山岸雅己氏(以下、山岸) グローバル企業では10年以上前から「ダイレクトソーシング」という表現で、人材を待つのではなく、企業側から自ら獲得にいく手法が実践されています。私たちの採用活動はこれまでエージェントに依存していた状態でしたが、これからはダイレクトリクルーティングにも積極的に取り組もうと方針を打ち出しています。スカウトや転職サイトで人材を発掘することもあれば、自社社員の紹介で獲得することもあります。要は、いろいろなチャネルを活用して社員を採用することがダイレクトリクルーティングです。

 人材の獲得は、いかに低コストでスピーディーに質の良い人材を獲得するかにかかっています。転職希望者はエージェントを使う人と使わない人に分かれますが、エージェントへの依頼だけでは、それを活用しない人に一向にアプローチできません。エージェントを使わない層に優秀な人たちがいるのであれば、当社からアプローチしていく必要がある。これが昨年10月からダイレクトリクルーティングを始めた理由です。

――中途採用で、年間何人ほど採用しているのですか。

山岸 詳細な数字はお伝えすることはできませんが、今年度は昨年度よりさらに100名以上の採用増を見込んでいます。景気が上向いてきたことで、多様な業種から依頼される新規事業やグローバル案件などが増えており、その対応に向けて採用数を増やしていく方針です。コンサルティング会社は不景気の時代にはM&Aや事業再生、好景気の時代には新規投資案件というように、どちらでも収益を確保できるように経営されていますが、今は新規案件が増えている状況です。

――実際、採用に当たっては、どのような手段を取っているのでしょうか。

山岸 転職サイト、Linkedin、Facebookなどのビジネス向けソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を掛け合わせれば、対象者にたどり着くことができます。SNSを活用してスカウトメールを送ることがダイレクトリクルーティングであると考えられがちですが、SNSはあくまでツールのひとつにすぎません。転職サイトも同様です。

 当社は社内の要望に応えるために、社員紹介制度も含めてそれぞれのツールをマトリックスのように掛け合わせて、複合的に利用しています。いわばハイブリッド戦略です。この方法を昨年11月にスタートさせて、2カ月で10名近くを採用できました。将来的にはハイブリッド戦略で採用数の3~4割ぐらいをカバーしたいと考えています。残りは従来通りにエージェント経由で採用する方針です。エージェントでなければ口説けない優秀な人材も多くおりますので。

――それはどのような場合でしょうか。

山岸 応募者側からすると、人事部から直接コンタクトされると候補企業が1社に絞られてしまいますが、エージェントが間に入れば複数企業に応募できるので、選択肢を複数考えている応募者にはエージェント経由のほうが関係を築きやすいこともあります。

 それから、転職を今すぐに考えていない候補者の場合、説得するにはかなりの時間を要しますし、キャリア形成に関してエージェントからのアドバイスなしには転職に踏み切らない方もいます。このような場合はエージェントにお願いしています。したがってダイレクトリクルーティングを進める過程で、エージェントへの依頼をゼロにすることはないでしょう。

●エージェントでは伝えきれない情報を伝える


――そもそも有名なコンサルティング会社である貴社であれば、ダイレクトリクルーティングを行わなくても、いくらでも優秀な人材が応募してくると思いますが。

山岸 いえ、じつは調査によると、20代の社会人における当社の認知度は、BtoC企業やWebサービス企業に比べて高くはありません。30代以降ではある程度の認知度を得ているのですが、若い人たちの間では低いのが現状です。仮に当社がいくら熱心にスカウト活動を行っても「PwCを知りません」と言われかねません。そこで、当社の認知度向上のため、Web等を用いた広告戦略も積極的に行っています。

――対象者との最初の接触では、「面接」でなく「面談」を行うとのことですが、意図はなんでしょうか。

山岸 当社を含むビッグ4と呼ばれるコンサルティングファームの社員は、他のファームに転職しても、勤務する会社が変わっただけで、なんら変化は規定できないのではないかと思いがちです。すると、転職する理由がなくなり、動きにくくなってしまいます。

 こうした事情を考えた場合、いきなり採用する部門のトップが会うと「面接」になってしまうので、人事部が「面接」ではなくこちらからの情報提供という観点で「面談」を行っています。同じようなファームであっても、実際にはかなり違いはあるので、あえて良い話も悪い話も伝えるようにします。ですから、履歴書や職務経歴書がないままお会いしたり、私自らオフィス近くまで伺い、話しをすることもあります。その上で、「私の話を聞いて正式に応募するかどうかを決めてください」と締めくくっているのです。

 例えばエージェントに相談すれば、多くの場合は「1社とはいわず、複数社受けましょう」と言われます。これは複数の選択肢の中から一番良いものを選ぶという意味でも理にかなっていると思いますが、面接官の印象や熱意、そして最終的には給与で決めてしまう傾向もあります。直接候補者の方とお話しする以上、どれだけ他では得られない情報をお伝えするかがポイントですので、当社で築けるキャリアの可能性や人事部から見た社員の様子など、エージェントでは伝えきれない情報もお伝えしています。

●社員紹介


――社員紹介による具体的な採用方法について教えてください。

山岸 従来は社員紹介をひとくくりに扱っていましたが、これに段階を設けました。第1に当社社員が応募者からレジュメや当社に入社したい意思、希望するポジションなどを確認した上で人事部に紹介するケースです。

 第2に、前職の同僚ですごく優秀な人がいて一緒に働きたいのだが、その人を誘うほどの関係ではないというケース。前職との関係を気にして自分から声をかけられないなど、こうしたケースではSNSの情報から人事部からコンタクトを取ります。推薦者の名前を出して「○○さんの推薦で連絡を差し上げました」と

 第3のケースは「この人は優秀だし周囲からの評価も高い方なので、ぜひスカウトしてください」というケースです。狭い業界ではありますので、評判を聞き、人事部からコンタクトを取ります。紹介者も候補者と面識がないこともあるので、名前は出しません。

 このように段階に分けてコンタクトの方法を変えています。採用に至った場合は紹介者に報酬が支払われますが、報酬金額も段階によって変えています。

――3番目のケースでは、コンタクトした相手から「どうやって自分を知ったのか?」と訝しがられることはないのでしょうか。

山岸 警戒心を抱かれないようにSNSからコンタクトを取るとか、インターネット上にご連絡先が出ている方には直接メールでコンタクトをします。コンタクトの取り方を一歩間違えると当社のブランドにも影響を及ぼすので、慎重に取り組んでいます。

――日本でダイレクトリクルーティングに積極的なのは、どのような業界でしょうか。

山岸 おそらく、どの業種でもやろうと思えばできるでしょうが、SNSや転職サイトへの登録者の層が問われてくるでしょう。となると登録者数が多いのはITと金融なので、この2つの業種が取り組みやすいといえます。その次がコンサルティングでしょうか。

――ありがとうございました。
(構成=編集部)