ここ数年、転職仲介会社や人材派遣会社がこぞって、大企業などを定年退職した技術者や管理職に登録してもらい、中小企業に派遣するサービスを始めています。現在、多くの企業で熟練技術者が一斉に退職する時期を迎え、技能の伝承が課題視される状況の中、社会的な意義も高い事業でありインフラだと思います。
先日、そうしたサービスを提供する企業の人と、たまたま話す機会がありました。その人の話によれば、大企業を退職した高齢の登録希望者の中で、クライアントに紹介できる人というのは限られているようです。能力の優劣の問題ではなく、派遣を受け入れる企業の社員との相性やコミュニケーションの問題があり、なかなかすんなりとはいかないようです。まったくそれまで接点のなかった人たちのいる環境、今までの職業人生とまったく異なる環境でも順応できることは、また一段難しいそうです。
知識やノウハウがあったとしても、順応性、人の話を同じ目線で聞くとか、自分のいた会社と今の会社の違いを理解した上で考えを整理してうまく伝えるとか、そうした力がなければそれが生かされないということです。慣れ切った環境下で求められる会話力と、まったく知らない人相手に求められるコミュニケーション力とは大きく異なります。そのスキル、ギャップ感を現役時代のうちに持っておくことが、高齢者が働き続けるコツなのかもしれません。
肩書は一見立派でも、実際には皆に嫌われ、ほとんどリスペクトされていない人もいれば、会社や肩書が離れても仕事仲間や家族、友人に愛される人もいます。筆者がお付き合いのある中小企業の中には、取引関係や経営者の個人的なつながりなどで、大企業OBが顧問などアドバイザー的な立場で在籍していることがありますが、他の社員と調和を持って協業できている人とできない人とはっきりに分かれます。
そこで本稿と次稿の2回にわたり、退職後の新たな環境で能力を発揮できるかどうかを分けるポイントを考察してみたいと思います。将来的に第二の職業人生として、中小企業の顧問やアドバイザーとしての働き方を考えている方の参考になればと思います。
●NG1:どう結果を変えるかよりも、どう報告するかに発想が寄りすぎている
大企業で過ごしてきた人は、色々なことを知っていますし、頭の回転もすごく早かったりします。企業や部門の課題についても非常に整理されて理解していますが、「では、どうするか」に話が及ぶと、途端に口が重くなったりします。反射的に頭の中で、「稟議書にどう書けば漏れがないか、ケチをつけられないか」ということに意識が集中し、話の中身が大きければ大きいほど「失敗した場合でも、今年の人事評価シートにどう書き込めばいいか、言い訳の余地があるか」などに条件反射的に思考をめぐらせるからです。