企業には、それぞれ独自の「経営理念」があり、その理念とは企業の哲学であり存在意義です。
ただ、いかに立派な理念を掲げていても、売上がなければ空念仏。ということで、「経営理念」とは日々の売上ノルマの前ではないがしろにされがちです。
そんな中で、売上よりも何よりも「理念」を最上位に掲げて成功している企業もあります。
住宅販売とリフォーム事業を展開するリアンコーポレーションの経営者、五嶋伸一さんは、自身の著書のなかで「お客様の幸せを第一に考え、感動を提供する」という企業理念を挙げ、この理念を単なる理想ではなく本気で実現するために取り組んでいます。
五嶋さんがこの理念に行き着いたことは、自身の生い立ちと過去の失敗体験なしには語れません。
父親の違うお兄さんと共に、お母さんの女手一つで育てられたという五嶋さんの幼少時は、お兄さんとの間の、お母さんの露骨なひいきに苦しんだといいます。
お兄さんには夕食が出るのに、自分には出ない。
「いつか強くなって見返してやる」
この扱いの違いは、五嶋さんの心に両者への復讐心を植え付けました。
中学生になると、学校にはろくに通わなくなり、暴走族に。この生活は、中学卒業後とび職の仕事についてからも続きました。
転機は22歳の時。
結婚し、すぐに奥さんの妊娠がわかった時「自分が子供時代に味わった思いをさせたくない」という思いから、それまでの交友関係を全て断ち切って地元を出ます。
そして、転職した「住宅リフォーム会社の営業マン」の職が肌に合っていました。みるみる頭角を現し、入社して半年で支店長、25歳で営業本部長と、破竹の勢いで出世。収入も激増し「有頂天になっていた」という五嶋さんでしたが、会社の急すぎる成長が大きな挫折を生んでしまいます。
あまりに急スピードで成長したために、社員のマナー教育やコンプライアンス意識の徹底が追いつかなかったのです。それでも、優先されるべきは「売上」。「このままではまずい」と思っていた五嶋さんも、実際には「寝ずに働け。数字が足りないなら支店長が数字を作れ」と号令をかけるしかなかったといいます。
そして、ついに破たんが訪れました。
一人の社員が認知症の顧客と契約してしまったことが問題となり、社名がマスコミに取り上げられてしまったのです。これをきっかけに売上が激減、社員の流出も始まり、数か月で300人いた社員が50人ほどまで減ってしまいます。