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ノンフィクション作家 清泉亮インタビュー(2)

日航と航空機墜落の村、陰で罵声浴びせ合う現実 剥き出しの村民たちの私利私欲

文=編集部
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日航と航空機墜落の村、陰で罵声浴びせ合う現実 剥き出しの村民たちの私利私欲の画像1日本航空123便墜落現場(群馬県多野郡上野村)
 1985年8月12日、日本航空123便が群馬県上野村に墜落し、乗客・乗員520人が死亡した。単独の航空機事故としては、いまだに世界最悪の死亡者数だ。

 今年は事故発生から30年。現場近くに住むノンフィクションライター・清泉亮氏は7月に『十字架を背負った尾根』(草思社)を上梓、これまで言及されることがほとんどなかった上野村民の姿を描いている。前回は事故現場である御巣鷹の尾根を守り続ける上野村民たちが、日航の寄付金に依存している実態について、清泉氏に話を聞いた。

 今回は清泉氏に

・上野村にとって日航機事故、御巣鷹の尾根がもたらすもの
・上野村とマスコミの関係

などについて話を聞いた。

–村民の方々にとって、御巣鷹の尾根は慰霊のための場というだけではなく、生活の糧を得るための手段ともなっているといえますか?

清泉亮氏(以下、清泉) 御巣鷹の尾根を目指して来られる人々の規模は、村にとって今や無視できないレベルに達しています。恐らくそれは、これまで村や周辺の集落に存在した、ありとあらゆる観光資源の規模を凌ぐものです。

 村の温泉場にしても、産直の店にしても、御巣鷹の尾根という場が存在しなければ、維持さえ難しいでしょう。もしかすると、村民にとっても「遺族のために」というスローガンは、特に大手新聞社の記者などには心地よく響きますから、メディア向けの免罪符のような役割を果たしているのかもしれません。

–現在でも日航機墜落事故のニュースバリューは極めて高いです。

清泉 村が「御巣鷹の尾根に、こんなニュースがあります」と一声掛ければ、地元メディアは当然ながら、日航機事故・御巣鷹山の担当記者を配置している全国紙の前橋支局記者や、場合によっては国土交通省に詰める番記者、民放キー局の社会部担当記者さえロケバスやハイヤーを飛ばして御巣鷹の尾根までやって来ます。特に美談や悲話となると、報道しないと一種の「特オチ」(編註:他の報道機関が報道しているニュースを自社のみが報道できないこと)になってしまいますから、各社とも決して無視できません。たちまち全国ニュースとして発信されます。しかし、そうした用意された話、舞台が整えられたネタからは決して見えてこないリアルな心象風景が、やはり御巣鷹の尾根には存在するのです。

–日航側と村民側のせめぎ合いなど、想像したこともありませんでした。

清泉 日航は尾根に関して、たとえ村民であっても一挙手一投足を管理したいというのが本音だと思います。しかし、村民の間には「いちいち山を知らない航空会社にお伺いを立てなければならないというのは受け入れられない」という反発も強いのです。

 日航にも当然、御巣鷹担当がいて、しばしば山に登っていろいろと整備をします。村の人間にそんな折にもいろいろと注文をしていくのですが、その後の村民の日航職員に対する口を極めた罵詈雑言は聞くに堪えません。「あの若造が……偉そうに……」など、まだいいほうです。どうしても企業は組織の論理と行動規範が身についていますから、日航の担当者からの言葉が年長者意識の強い村の掟の輪に投げ込まれると、潜在的な反発や波紋につながるのは致し方ないことなのかもしれません。

 一方の日航も「あの人は女性にばかり露骨に親切だ」「あれやれ、これやれと人使いが荒い」と、罵声とも揶揄ともつかない言葉を洩らしています。しかし、「遺族のために」という掛け声のもとでは、とにかく互いの齟齬や感情的軋轢を押し殺して、一枚岩を演出せざるを得ないのです。もちろん、人間の作業ですから、演出が絶対的な悪だということではありません。しかし、こうした感情的軋轢のストレスは日常の運営のさまざまな局面で微妙に露見してきます。

–具体的には、どんなことが露見するのですか?

清泉 たとえば、尾根の管理に携わる村人は、公益財団法人「慰霊の園」としてではなく、個人でマスコミを呼びたがります。あちこちの新聞社やテレビ局に「ネタがあるぞ、俺の写真を撮りに来い」と呼びかけるのです。

 事故の記憶を風化させないためという題目のもとには、メディアに報道してもらうことは必要でしょう。しかし、同時に村民個人を取り上げない取材の局面や、記者や取材クルーに対して、村民側が露骨に罵声を浴びせたり、無視してみたり、荒ぶってみせたりと、はたから見ていても嫌気が差します。一方で、テレビと新聞には個別にネタを提供するなど個人で手なづけようとし、反対に週刊誌の取材などには、村を通さないと取材には応じられないと胸先三寸で門前払いするという具合に、手慣れた広報マンさながらに巧みにあしらいます。

–広報マンですか……。逆説ではなく、本当に30年という月日が流れたんだなと実感させられますね。

清泉 村民自身への取材ではなく、遺族の取材のために山に上がって来た関係者には「勝手にやらせておけ」となる。そして、いったん自分に取材が向かってくると、カメラの前では満面の笑みで「どうぞどうぞ」と変貌する。自身が映ったテレビや、新聞記事をスクラップブックに丁寧に集めて、自身の趣味か、個人プレーが生きがいのようになります。

 あくまでも慰霊の園を守っているのは村民全体であり、個人ではないのです。しかし、個人プレーばかりを前面に出して、自身でマスコミを呼び、とにかくマスコミに露出することに腐心する村民がいるのも確かです。それはしかし個人の趣味でしかなく、遺族のためという本旨とはかけ離れています。

私利私欲のために御巣鷹の尾根を利用している村民がいるのですね。

清泉 夏場になると、企業の安全研修の一行が数多く訪れますが、事前に村へ連絡しているはずなのに、自身の耳に入っていないまま山に上がって来る企業の担当者らを見つけると、昇魂之碑の前で荒ぶって見せる村民もいて、目も当てられません。

 そうして山からの帰りには、まるで伊勢丹三越で買い物でもしてきたかのように、企業らが持ってきた手土産やらを両手にかかえて降りてきます。村はあくまでも慰霊の園として現地を管理・運営しているのに、誰もがこうした役得まがいの個人プレーに走ればどうなるでしょうか。

 また、日航側にしても、村民が個人でマスコミを呼んで、ある日突然、記事が出ればびっくりします。組織として担当者は面目がつぶれるし、上からは「しっかりマスコミ露出を管理しろ」とも言われるでしょう。日航の担当者は、村の担当者に小言のひとことも言うでしょうし、釘も刺します。これが尾根の担当者らの耳に伝わると、表向きは「はいはい」と言いつつ、陰ではまた携帯電話から前橋支局の記者らを個人で呼び寄せます。せっかく発表するならば、慰霊の園として定期的に状況をニュースリリースすればいいのですが、村としては日航への遠慮からかアクションが取りにくいのです。その睨み合った空隙を突くかたちで、個人プレーと役得まがいの行為が横行するわけです。

–村民も日航も共にどうしようもない、と非難するには、あまりに人間臭いです。

清泉 噛み合わない循環の日常のなかで、何が悪くて何が良い、ということはわかりませんが、ただ根本的なコミュニケーションが成立していないとは感じます。それが今後、将来に向かって墜落現場を守っていくときにどうなるのだろうか、日航側の組織論理と、村人側の既得権益意識がせめぎあったその先に、本来見据えるべき、「遺族」がこの先いつか、置き去りにされてしまうことがないか心配です。

 互いに陰では罵声を浴びせているにもかかわらず、テレビと新聞の前でだけ、にっこり笑って「ご遺族のために」と唱えています。まったく不思議な光景です。それが果たして将来、どう展開するのか気になるところです。

–ありがとうございました。
(取材・文=編集部)

●清泉亮(せいせん・とおる)
1974年生まれ。人は時代のなかでどのように生き、どこへ向かうのか――。「ひとりの著名人ではなく、無名の人間たちこそが歴史を創る」をテーマに、「訊くのではなく聞こえる瞬間を待つ」姿勢で、市井に生きる人々と現場に密着し、時代とともに消えゆく記憶を書きとめた作品を発表している。前作に『吉原まんだら―色街の女帝が駆け抜けた戦後』(徳間書店)。

第1回:『【日航機墜落30年】御巣鷹の村、日航の「下請け化」=経済的依存が深まる歪んだ関係』

第3回:『日航機墜落ドキュメンタリー番組のウソ シナリオに沿った撮影、感涙を誘うための編集』

第4回:『日航機墜落30年、想像を絶する地元民の苦悩 極寒の地で、520人の墓標を守る老夫』

BusinessJournal編集部

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