NEW
水野誠「マーケティングの進化学」

快走マツダ、その異質な経営 「事業目標・市場分析なし」は本当?市場の2%のみを対象

【この記事のキーワード】

, ,

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

元気なマツダで何が起きているか


 最近、マツダが元気だといわれています。2015年度3月期決算で、売上高、営業利益、純利益とも過去最高の水準になりました。トヨタ自動車や独フォルクスワーゲンのような巨大自動車企業ではありませんが、個性的な製品開発を進めて、着実にその地歩を固めているように見えます。

 では、本連載で過去2回にわたって解説してきた、マーケティングの基本戦略STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)において、マツダはどのようなことを実践してきたのでしょうか。グロービス経営大学院の川上慎市郎准教授は、2014-15年のカー・オブ・ザ・イヤーを受賞した新型デミオについて、その成功要因を「STPしないこと」に求めています。川上氏は以下のように述べています。

「マツダの製品開発プロセスは、まず世界中から『マツダのクルマが大好きだ』というユーザーを選び、その価値観(インサイト)を徹底的に明らかにするところから始まります。(略)顧客セグメント推定やそれに基づいた市場規模計算、事業予測などは一切しません。狙い定めるのは、マツダが『こういう人にこそ、うちの顧客になってほしい』と思える価値観を持ったユーザーだけです。(略)同じセグメントやスペックの近い製品ではなく、似たような価値観・世界観を備えた製品だけが競合になります」(2014年10月22日付サイト「cakes」記事『マツダを救った新型デミオの「STP」しないマーケティングって?』より

 つまり、マツダはSTPに基づくアプローチを取らないことでデミオを成功させたというわけです。ジャーナリストの池田直渡氏によれば、マツダに取材して事業目標を尋ねると「笑顔になれるクルマをつくること」「2%の人に満足してもらえるクルマをつくり続ける」などという返事があるそうです。そこで池田氏は「マツダは商業としての目標を持っていない。だからマーケティング的なビジネス戦略を聞いても無駄なのだ」と述べています(7月13日付「ITmediaビジネス」記事『「常識が通じない」マツダの世界戦略 (1/5)』より)。

トップダウン型発想 vs. ボトムアップ型発想


 マツダが最近好調なのは、マーケティングの教科書に書かれているSTPを「しない」からだということになると、これまで本連載で述べてきたことは無意味だったのでしょうか。

 そのことを考える上で、マーケティングにはトップダウン型とボトムアップ型の2つの発想がある、という筆者独自の視点について述べてみたいと思います。

 20世紀に興隆し、米経営学者フィリップ・コトラーらによって体系化されてきたマーケティングは、市場全体をセグメントに分割し、最適なターゲットを設定し、競合製品との差別化のためにポジショニングを行うことを推奨します。これがSTPですが、それを的確に行うには、市場全体を俯瞰してとらえることが望まれます。市場全体を上から眺めて管理しようとする点で、これはトップダウン型の発想といえます。ちなみに、企業トップの権限が強い、という意味でのトップダウンとは違います。