ブランドが強くなる結果
強力なブランドを築くこと、これは現在では経営が目指す大きな目標のひとつになっています。もし企業が強いブランドを持てば、さほど営業努力をすることがなくても流通に商品を受け入れられ、広告やプロモーションもより効率的に実施することができます。また、さらにブランドが強力になると、ブランドが社会的な存在となり、ブランドの活動が注目され、わざわざ広告や広報活動を行わなくてもニュースになることもあります。例えばアップルのiPhoneなどはそのような例でしょう。iPhoneの新しいモデルの発表は、NHKのニュースでも報道されるほどです。
このように強力なブランドを保有することのメリットは、すでに多く語られてきました。しかし、強力なブランドを持つことのデメリット、マイナスの側面についてはあまり語られてきませんでした。強いブランドを持つことによって、ネガティブな側面が出てくることがありうるのです。
ブランドが長い間トップの地位にあり、その地位をおびやかす競争相手が弱いとき、そのブランドを保有する企業の社員には、一種の「ゆるみ」が生じることがあります。企業の創業者が大変な努力をして事業を立ち上げたにもかかわらず、創業期が終わってあとから入社してきた社員たちにとって、自社ブランドの地位は絶対に揺るがないものに見えることがあります。
ブランドへの過信
ブランドが強力になることの反動として出てくるのは、ブランドへの過剰な自信や慢心です。こうした現象を「ブランド全能感」(brand omnipotence)と呼んでみましょう。これは、そのブランド企業の社員やトップが抱く、自社のブランドの強さは絶対的なもので、ブランドが何をしてもどのような主張をしても社会的に受け入れられるというような、傲慢な態度を指しています。
全能感という用語は、オーストリアの心理学者、ジークムント・フロイトなどによる精神分析の文脈で、「幼児期全能感」(infantile omnipotence)として語られてきました。これは、私たちがまだ赤ちゃんや乳児であったころ、誰しもがもつ全能感、つまり親に保護されている身分でありながら、「自分(乳児)は全能の存在でなんでも身の回りの人たちは言うことを聞いてくれる」と考える傾向を指しています。もちろんこうした幼児期の全能感は、成長するにつれて現実とぶつかる中で解消されていくのが普通です。
つまり、全能感とはまず、自分が他者の手で護られているにもかかわらず、自分が一番で完璧な存在であると思いこむ勘違いから生じることがわかります。