ブランド全能感の症状(3):成長への誤解
3点目のブランド全能感の現れは、次の自社の成功ステップを間違う点です。自社のブランドにとらわれてしまった挙句、次の成功をどの方向に見いだしたらよいかわからなくなることです。
例えば、ソニーブランドが凋落した原因についてはさまざまに語られています。ソニーブランドが強力と信じられてきた2000年代初め頃まで、誰しもがソニーブランドの強さを疑わなかったようにみえます。前出のジョブズ氏は、ソニーの問題点とはソフトウェアに力を入れなかったことだと言っています。
「本当に偉大な、日本のコンシューマー・エレクトロニクスの会社があって、それがポータブル・ミュージックの市場を支配していました。自分たちで長い時間で創り出して、自分たちで支配したのですが、彼らは適切なソフトウェアをつくれませんでした。適切なソフトを考え、インプリ(実行)することができませんでした。なぜならiPodはまさにソフトウェアなのです。iPodに入っているのはソフトウェアなのです。PCやMacに入っているのはソフトウェアです。iPhoneが何であるかといえば、こう考えてほしいのですが、その本質はソフトウェアなのです」(動画共有サイト「YouTube」-『スティーブ・ジョブズが語る ソニー失敗の本質とアップルの本質』より)
もちろん、ソニーがソフトウェアに力を入れなかったわけではありません。ゲームやテレビ、スマートフォンについてそれなりに優秀な製品を送り出してきて、その中身がソフトウェアであることはソニー自身がよく理解していることでしょう。
また、実際ソニーがやってきたことは、つい先ごろまでアップルのやってきたことに先んじていました。すでに68年にCBSソニーレコードを設立し、89年に映画会社コロンビアピクチャーズを買収したように、ソニーはソフトウェアの重要性に早くから気づいていました。また、00年に「エアボード」というパーソナルITテレビを発表し、iPadを先取りしていました。同年には「クリエ」というPDAを発売し、これは電話機能こそついていませんでしたが、iPhoneのコンセプトを先取りする製品でした。
しかし結果として、ソニーがアップルの後塵を拝するようになったのは、何が原因だったのでしょうか。
おそらく、アップルのようにブレークスルーを生むひとつの製品に徹底して集中できなかったことではないでしょうか。ソニーはそれまで広げてきた事業範囲があまりに広すぎました。金融、エレクトロニクス、映画、音楽、製造……。自分たちの持てる資源が大きすぎ、それらを統合して集中することができなかったのではないかと考えられるのです。