こうした幼児期全能感は、大人になっても姿を変えて発現することがあります。精神医学では、こうした状態を「誇大観念」(grandiose)と呼んでいます。誇大観念の、より病的な状態が誇大妄想です。ナルシスティックな自己愛的人格を持つ人には、往々にしてこうした誇大観念が見られます。こうした誇大観念には、傲慢さ、自己没頭、注目願望、自己主張などの傾向がみられます(『恥と自己愛の精神分析』<岡野憲一郎/岩崎学術出版社>)。
つまり、誇大観念を抱いた人は、周りの人に大きな態度で接したり、周囲の人に留意することなく自分のやることに没頭したり、周囲から注目されたいと思ったり、自己主張が激しくなる傾向があるのです。
企業でも、自社ブランドが絶対だと思うと、このような行動がみられるようになります。それでは、企業が自社のブランドを絶対視し「全能感」を抱くようになると、具体的にどのような症状が出てくるでしょうか。
ブランド全能感の症状(1):永続感
ブランド全能感の第一の症状は、ブランドの「永続感」です。自社のブランドの存在は絶対的なものであり、環境がどのように変化しても大丈夫だ、あるいは一時的に変調があったとしてもすぐに回復する、と考えてしまう傾向です。
ブロック玩具で世界最大規模の企業であるレゴ社は2004年に競争の激化により、310億円という大きな赤字に陥りました。当時CEO(最高経営責任者)に就任したのはクヌッドストープ氏でした。そのときに彼と一緒に再建を任された前CFO(最高財務責任者)が言った言葉は次のようなものでした。
「こんなにひどい業績を見たのは生まれて初めてだ。何もかもひどい。まったく儲けが出ていない。売り上げの予測すら立てられない。なのに、誰もが満ち足りた顔をしている。これこそ不思議だ」(「日経ビジネス」<日経BP社/2月16日号より>)
これは象徴的な言葉です。赤字に陥っていながらも、社員は誰も危機感を持っていないのです。レゴ社は身売りさえ囁かれているというのに、おそらく社員は「うちの会社は大丈夫だ、なんせレゴなんだから」と思っていたのかもしれません。
これがブランド全能感から出てくる自社の永続感です。誰しもが認める強力なブランドを築いたレゴですが、強力なブランドを構築した後では、それが社員にとっては何もしなくてもブランドは永遠に続くと思わせ、イノベーションの必要を感じさせなくなっていたのです。