体に良いと思っていたサラダ油などの植物油をやめ、えごま油やアマニ油を少量摂る「少油生活」に切り替えただけで、娘のアトピーは劇的に改善し、私の花粉症はなくなり、妻は無症状で更年期を通過しました。
こうした体験の謎を探ろうと、植物油について書かれた本を調べては読みあさりました。時には学術論文も取り寄せ、馴染みのない専門用語はインターネットで調べ、理解を深めていきました。
さまざまな本を読み込むうちに、共通する植物油の問題点が次の3点に集約されることに気づきました。
(1)サラダ油などに含まれるリノール酸(オメガ6脂肪酸)は、必須脂肪酸ではあるが摂りすぎるとさまざまな病気を引き起こす元となる。
オメガ6脂肪酸は体内でアラキドン酸をつくり、そこから各種のホルモン様物質がつくられる。しかし、必要以上にオメガ6脂肪酸を摂ると細胞がアラキドン酸で満たされ、炎症を促す作用のあるエイコサノイドが過剰につくられ、炎症系の体質になる。
(2)アルファリノレン酸、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)といったオメガ3脂肪酸も必須脂肪酸であり、オメガ6脂肪酸によって引き起こされる炎症作用を鎮める作用がある。ふたつの必須脂肪酸は、相反する働きをする。オメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の摂取バランスが健康を左右する。
(3)現代人はオメガ6脂肪酸を摂りすぎていて、オメガ3脂肪酸は不足している。
必須脂肪酸の一日当たりの必要量の目安は諸説ありますが、オメガ6脂肪酸は8~12g、オメガ3脂肪酸は目標量として2.2g以上の摂取が設定されています。
農水省などが推奨するオメガ6脂肪酸:オメガ3脂肪酸の摂取比率は4:1で、研究者などの専門家は1:1や2:1を推奨しています。ところが、現代人の平均的な摂取比率は10:1から多い人で50:1といわれており、農水省推奨の値さえも大幅に上回っています。
オメガ6脂肪酸の摂りすぎになってしまう原因は、現代の食生活にあります。オメガ6脂肪酸はほとんどの食物に含まれていますので、サラダ油などオメガ6脂肪酸の多い油を使わない食事でも必要量は十分足りてしまいます。植物油の原料となる大豆やごま、とうもろこしなどは当然ながらオメガ6脂肪酸の多い食物です。また、オメガ6脂肪酸は肉などにも含まれています。
写真は和食の定番で、調理に植物油を使っていない(油揚げを除く)食事ですが、これだけでも3.9gのオメガ6脂肪酸が含まれています。一日の必要量の2分の1~3分の1に相当します。
さらに居酒屋の人気メニューを見てみると、ビール以外の3品だけでオメガ6脂肪酸の総量は12.7gです。植物油を使った唐揚げ(5.8g)とキャベツのマヨネーズ和え(2.7g)で一挙に増えてしまい、ほぼ一日の必要量を満たしてしまいます。
一例として、この2食のほかにランチとしてポークカレーライス(500g)を食べたと仮定すると4.9g加算され、この日のリノール酸の総摂取量は21.5gに上り、推奨される必要量の2倍近くを摂ることになってしまいます。オメガ6脂肪酸の過剰摂取です。こうした食事は現代人にとっては特別な食事ではなく、ごく普通の食事でしょう。
少油生活に切り替える前の私たちも、まさにこんな食事でした。トンカツ、天ぷら、野菜炒め、ポテトフライ、ポテトチップス、マヨネーズ、ドレッシングなど、植物油を口にしない日はありません。
私たちの体は37兆個の細胞から成っています。その細胞膜は脂肪酸でできていますので、こうした食生活でのオメガ6脂肪酸の過剰摂取で細胞は炎症系に偏り、全身が病気を起こしやすい体質に陥っています。その結果、アレルギーや糖尿病、がん、心筋梗塞、脳卒中、うつ病、認知症などのいわゆる現代病を発症しやすい“油病”に誰もが罹ってしまっているのです。
植物油はどの家庭にもあり、外食でも業務用として大量に消費されています。しかし、植物油の害は消費者にあまり知らされていません。身近にある植物油は私たちの健康を蝕む盲点だったのです。
(文=林裕之/植物油研究家、林葉子/知食料理研究家)