漢方薬は、植物や昆虫、鉱物などの生薬を配合してつくられる。そのため、「自然由来だから体にやさしい」と考えられがちだが、使い方を誤れば症状を悪化させ、時には命にかかわるのだ。
西洋薬を処方する場合、どのような病気なのかを見極め、病名から判断して症状を緩和できる薬を決定する。それに対し漢方では、症状と患者の体質などを総合的に見極めて適切な薬を選択する。
その判断基準を「証」と呼ぶ。体質や性格、普段の生活、嗜好まで、今の体調を形成する要素をすべて勘案し、虚証・実証、陰証・陽証、表証・裏証、寒証・熱証の8パターンの組み合わせから、患者の証を見極めて服用すべき薬を決定する。しかし、漢方の専門医でなければ、なかなか適切な証を判断できないのが現状だ。
そのため、ある程度の当たりをつけて処方し、症状が改善しなければ「誤治」(証が間違っている)と判断して薬を替える、という治療をすることになる。
誤治の場合、食欲不振や不眠、頻尿、めまい、月経異常といった症状が出ることがある。例えば、陰証や寒証であれば体を温める漢方薬を処方するべきだが、冷やす効能のある薬を服用すれば症状は悪化することになる。
同じ症状であっても、証が違えば薬も変わるというのが漢方薬なのだ。「風邪には葛根湯がいいらしい」などと、聞きかじりの知識で飲むのは危険だ。
また、生薬とはいえ、食物と同じくアレルギー反応も起こることがわかっている。
漢方薬でもっともよく使用されている成分のひとつに「甘草」(カンゾウ)がある。過剰に摂取すると、顔や手のむくみ、尿量減少、体重増加、筋肉痛、脱力、筋力低下、けいれん、頭痛、嘔気など多くの副作用が報告されている。特に多量に摂取した場合は、脳出血、心筋梗塞、腎不全といった命にかかわる病気を引き起こす可能性も指摘されている。
甘草は医療用漢方薬148処方中109品に含まれており、複数の漢方薬を服用した場合には甘草を多量に摂取する可能性がある。また、食品の甘味料としても多く使われているので、注意が必要だ。
ほかにも、「麻黄」(まおう)という交感神経亢奮作用を持つエフェドリンが含まれる生薬も多くの漢方薬に配合されている。不眠、発汗過多、頻脈、精神亢奮、食欲不振、排尿障害などを引き起こすことがある。葛根湯や麻黄湯、小青竜湯といった風邪薬、麻杏甘石湯、神秘湯などの喘息薬、越婢加朮湯、薏苡仁湯などの関節・筋肉痛薬などに配合されている。
漢方薬は、西洋薬に比べて即効性がないため、長期にわたって服用しがちだ。証の違いに気づかずに飲み続けたり、複数の漢方薬を飲むことで同じ成分を過剰摂取すると副作用を起こす危険がある。くれぐれも、自己判断で飲んだり、家族に処方された薬を飲んだりしないようご注意いただきたい。