8月6日付河北新報記事によると、秋田市中心部に昨年末開店した「あきたタニタ食堂」が、「客足が思ったほど伸びず、苦戦を強いられている」という。その原因を同紙は「塩分摂取量が多く、濃い味を好む秋田県民の嗜好と合わないこと」などにあると推測している。
確かに、秋田県民の塩分摂取量は多いが、これは秋田県に限ったことではない。北関東から東北地方の各県も、塩分摂取量は西日本に比べて高いほうだ。塩分摂取量の多さが原因であれば、そもそも塩分摂取量の多い日本人に薄味のタニタ食堂は好まれないだろう。塩分だけではないように思える。
タニタ食堂の定食とファミリーレストランのランチを比べてみた。タニタ食堂は塩分量が少ないことが一つの特徴なので、塩分量が同程度のランチを探して比較してみた。すると、ファミレスにも低塩分食は意外とあるものだ。
タニタの「さわらの梅蒸し定食」は、1食当たりの塩分量が2.8gである。すかいらーくが展開するガストは「ミックスフライランチ」、ジョイフルは「和風ハンバーグ」が1食当たり3.8g、セブン&アイ・ホールディングス傘下のデニーズは「ビーフ100%ハンバーグ~デミグラスソース」が2.8gだ。
ファミレスのランチは塩分が多いが、こうした定番メニューにもタニタ食堂と同程度の塩分量に抑えたメニューがあるのだ。タニタ食堂とファミレスの決定的な違いは「エネルギー(カロリー)」だ。
塩分が多くエネルギーが少ない食べ物
摂取カロリーは「低いほど良い」と思われがちだが、それにも程度がある。厚生労働省が発表した『日本人の食事摂取基準(2015年版)』によると、推定エネルギー必要量は下の表のように、30~49歳の男性で1日当たり2650kcal、女性で2000kcalとしている。一方、1日当たりのナトリウム(食塩相当量)の摂取目標は、12歳以上の男性8.0g未満、10歳以上の女性7.0g未満である。
【推定エネルギー必要量(kcal/日)】 ※左が男性、右が女性 身体活動レベルは「ふつう」
18~29歳 2650、1950
30~49歳 2650、2000
50~69歳 2450、1900
このエネルギー必要量と塩分目標量に対して、どの程度充足しているのかを示したのが、次の表である。
タニタの定食はエネルギー必要量のうち、男性18.8%、女性24.9%しか摂取できない。女性でも必要量の4分の1である。朝食に、昼食と同じ程度の500kcalを摂取しても、夜には昼食の2倍の1000kcalの食事を摂らなければならない。
塩分は35~40%も摂取しているのに、カロリー摂取量が非常に低い。これでは腹八分目にも満たないだろう。お菓子と比較するのは筋違いだが、カロリーと塩分に限ってみると、「かっぱえびせん」(カルビー)1袋とタニタの定食は非常に近い値になる。
代表的な即席麺である「カップヌードル」(日清食品)や「マルちゃん正麺」(東洋水産)も、塩分が多く摂取カロリーが低い非常にバランスの悪い食事だが、タニタの定食もバランスがいい食事とはいえない。かっぱえびせん1袋分のカロリーでは、空腹感や食事に対する物足りなさを感じるのではないだろうか。
これは何も秋田県に限ったことではない。客が来ない理由は、塩分が少ないからというだけではないだろう。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)