「水を一日2L(リットル)飲むとよい」との教えを信じて、毎日せっせと大きなペットボトル入り飲料水を消費している人が多数います。「ダイエット効果がある」「デトックス(解毒)効果がある」「血管がきれいになる」などといわれ、痩せたいと願っている人や健康を求める人が実践しているようです。
しかし、それに異を唱える医師も多くいます。実際のところ、ダイエットや健康のために2Lの水を飲むべきなのでしょうか。
水を2リットル飲むように推奨する根拠とされているのは、水を飲むことで基礎代謝が上がり消費カロリー量が増える、そのため肌がきれいになるなどの美容効果も得られるというものです。また、血液がサラサラになり、リンパ液の流れもよくなるため、体温も上がり免疫力も高まるといいます。
確かに、水を飲むと血液の循環がよくなる効果はあります。したがって、特に動脈硬化や高血圧など血管系の疾患リスクがある人は2Lくらいの水を飲むことは有用だといえるでしょう。しかし、健康な人が2Lもの水を飲む必要はありません。
人間は一日に体重の4%相当の水分を補給する必要があるといわれており、体重50kgの人であれば2Lに相当します。しかし、それは「水分」が必要なのであって、必ずしも「水」を飲む必要はないのです。例えば、日本人は一般的にご飯やみそ汁、野菜や果物など、食事によって0.8~1Lの水分を摂っているといわれています。そうすると、飲み水として必要なのは1Lほどだと考えられます。
また、外周り営業や工事現場などの職種とデスクワーク中心の職種では流す汗の量は異なり、補充すべき水分量も違います。そのような状況を考慮せず、一日2Lの水を飲むことが正しいなどとは一概にはいえません。
大量に飲めば病気になることもある
さらに、水を大量に飲むことは、体に害をもたらす可能性すらあります。「水毒」と呼ばれるが、体内に必要以上の水分を取り込むことで病気などを引き起こす要因となるのです。例えば、夏場に冷たい水を多く飲めば体を冷やし、冷え症やめまい、頭痛などを起こすこともあります。水分が十分に体外に排泄されなければむくみをもたらし、ダイエットどころかかえって肥満の原因にすらなるのです。
ほかにも、アトピーや鼻炎、喘息などのアレルギー症状は水毒が原因となり得るとの指摘もあります。特に花粉症は、夏から秋にかけて水分を多く摂っていると、翌年の春に症状が悪化しやすいことがわかっています。
水の飲み方にも注意が必要です。体が一度に吸収できる水の量は200ミリリットル(ml)程度といわれています。のどが渇いても、500mlのペットボトルを一気飲みするようなことをしては体に負担がかかります。腎臓が処理できる水も毎分16ml程度で、その能力を超えた大量の水を飲めば血中のナトリウム濃度が低下し、低ナトリウム血症を引き起こす。低ナトリウム血症は、頭痛や食欲不振、ひどくなるとけいれんや昏睡といった症状も起こるのです。
人間の体の6割は水でできており、水を飲まずに生きることはできません。しかし、無理をして大量の水を飲むと健康を害し、病気を招くこともあるのです。「毎日何L」などと決め付けるのではなく、自分の体と相談しながら飲むのが適切な量といえるでしょう。
(文=豊田美里/管理栄養士、フードコーディネーター)