経皮毒については賛否両論あり、医師や化粧品メーカー、化学者、薬品メーカーなど、それぞれの立場から多くの意見が発せられていますが、危険が警鐘され始めてから10年たった今でも見解は大きく分かれています。
化学者をはじめとする経皮毒否定派は、自然派化粧品メーカーなどが自分の商品を売り込むために、経皮毒の危険を煽っていると主張します。一方、経皮毒の危険について警鐘を鳴らす人たちは、化粧水やシャンプー、ハンドクリームなど、数え切れないほどの日用品に危険な化学物質が使用されているため、メーカー側が真実を隠していると批判しています。
経皮毒とは?
人間が物質を体内に取り込む経路は3つあります。飲食物を口から取り入れる「経口吸収」、呼吸によって取り入れる「経気道吸収」、皮膚から吸収する「経皮吸収」です。経皮毒は、学術用語ではありませんが、経皮吸収によって有害な物質を体内に取り入れてしまうことを指します。
食べ物に気をつけている人でも、意外と経皮毒には無頓着なことも多いようです。しかし、経皮吸収された物質は一度体内に吸収されると、排出されにくいことから経口吸収よりも危険といわれています。経口吸収された化学物質は、肝臓を中心とした器官を経由して分解、排出されます。肝臓で分解できずに蓄積する物質もありますが、多くは数日中に排出されます。
一方、経皮吸収された化学物質は10日たってもその10%ほどしか排出されません。消化や分解されず、皮下脂肪や子宮などに蓄積されます。経皮吸収の場合の化学物質分解率は、わずか2%といわれています。
経費毒否定派は、否定の根拠として皮膚の固いバリア構造を挙げます。実際に、皮膚は表皮、真皮、皮下組織の3つの層からなり、トータルで8つのバリア構造で外部からの侵入を防ぐ構造になっています。微生物やウイルスなど、自然界に存在するもので、このバリアを通過できるものはないといわれています。しかし、薬品メーカーや化粧品メーカーなどの努力の結晶として、この皮膚のバリア構造を破って体内まで届く物質が開発されています。皮膚の奥から肌質を改善する化粧品、シールを貼るだけで喘息などの気管支疾患をやわらげる薬など、皮膚を通り抜ける物質はいまや多数あります。
経皮毒でもっとも懸念すべきは、子どもへの影響です。特に女性は体内に入った化学物質が子宮に蓄積されやすいため、妊婦はもちろん、将来の子どもへの影響も否定できません。
経皮毒と病気の因果関係は、明確に立証されているものも否定されているものもほとんどありません。なぜなら、経皮毒は体内に少しずつ蓄積されると考えられ、病気を発症しても直接的な原因として特定することが困難だからです。
経皮毒が招く可能性がある病気として指摘されているのは、肌荒れ、湿疹、アレルギー性皮膚炎といった皮膚のトラブルをはじめ、アトピー、免疫力低下、がん、脳疾患、子宮内膜症、子宮筋腫、卵巣嚢腫などです。
身近に氾濫する毒性物質
経皮毒の危険を指摘されているものとしては、基礎化粧品をはじめ、ハンドクリーム、台所用洗剤、シャンプー、リンス、ボディーシャンプー、洗顔料などです。
その中でも特にシャンプーやリンスは注意が必要です。なぜならば、頭皮は他の部分の皮膚に比べて3.5倍も吸収率が高いといわれているからです。また、吸収された化学物質はそのまま脳に届いて蓄積する可能性があります。シャンプーの主要成分である界面活性剤は、毒性を指摘される化学物質です。界面活性剤は、ボディーシャンプーや台所用洗剤、歯磨き粉など、汚れを落とすために広く使われています。
リンスにも界面活性剤が使われており、特にシャンプーとリンスが一体となったタイプの製品は体内に浸透しやすい性質があるということがわかっていますので、注意が必要です。
前述したように、病気と経皮毒を直接関連づけることは困難です。仮に経皮毒が原因で病気になったとしても、先天的に持っていた体質が原因で発症した場合と区別がつかないからです。原因として特定できない限り、今後も「経皮毒は一部の安全志向、オーガニック信者の戯言」といったレッテルを貼られ、化学物質は広く使われ続けるでしょう。
いまだに日本では、経皮毒の研究が進んでいないため、発がん性が疑われている物質でさえも規制される見通しは立っていません。
化学物質は、実際に生活には有用で、少量の使用であれば健康を害する可能性も低いでしょう。しかし、私たちの暮らしの中では、思った以上に多くの毒性のある化学薬品が入った製品があふれています。
ちなみに、経皮毒の危険が指摘されている主な物質は以下のようなものです。
ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、パラベン、ソルビン酸、蛍光増白剤、安息香酸塩、タール色素、直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなど。
経皮毒を恐れるあまり、神経質になることを勧めるわけではありませんが、毒性が指摘されている物質を避けてもデメリットはないはずです。シャンプーや洗剤、化粧品を買う際に少しだけ意識してみてはいかがでしょうか。