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図書館の民間委託、めちゃくちゃな運営で訴訟続出!パートを時給180円で酷使

文=日向咲嗣/ジャーナリスト
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 10月1日付当サイト記事『ツタヤのCCC運営の図書館、不可解な図書購入めぐり疑惑浮上!在庫処分に利用?訴訟に発展』で、全国でも民間委託を最も積極的に進めている自治体のひとつである東京足立区のケースを例に、公共図書館がいかに「ワーキングプア」を大量に生み出す元凶となっているかをレポートした。

「民間に委託すれば、より少ない費用でより充実したサービスが受けられる」という考え方は、絵にかいた餅にすぎず、現実には受託した企業が利益を確保するために人件費を低く抑えているにすぎない。

館長を雇い止め~裁判~和解

 今回は、さらに具体的事例を挙げて解説していこう。

「無理が通れば道理が引っ込む」と言われるように、足立区の図書館では、これまで2つの大きな労働事件が起きている。

 まず、指定管理制度完全導入直後の2009年に足立区内の図書館で起きたのが「館長雇い止め事件」だ。

 指定管理者となった企業に契約社員として雇用された男性館長は、区との契約を忠実に履行しようと、小学校に対する出張読み聞かせや読書普及活動などの「児童サービス」を推進する業務も熱心にこなしていた。ところが、経営サイドから突然「児童サービスは図書館の業務ではないのでやらなくていい」と言われた。

 男性館長が「これも図書館の重要な業務だ」と反論すると、「それなら残業をゼロにせよ」と指示された。指定管理者がより利益を上げるには、できるだけ余計なことはせずに人件費を削るべきだから、その要求は理にかなっているといえるが、一方で、この会社は、受託した公共図書館を単に金儲けの対象としか見ていないことを、はからずも露呈したともいえる。

 男性は、仕方なく命令に従って残業を撤廃。それにもかかわらず、直後に契約期間満了を理由として退職を余儀なくされたのだった。

 自らプロポーザル書類も作成して、指定管理施設受託の立役者でもあった館長は、公務ユニオンに加盟して団体交渉をしたものの、会社側が頑なな姿勢を崩さなかったため、雇用継続を求めて裁判を起こした。

 すると、この指定管理企業の経営者は、拡大をめざしていた公共施設受託事業全体に影響が出ることを恐れ、早期に金銭解決の和解を求めてきた。それに男性館長が応じたため、結果的に復職は叶わなかった。

時給180円の内職を強要

 そしてもうひとつは、3年前に足立区内にある別の図書館で起きた女性副館長の公益通報事件だ。事件前年の夏、区の要請で図書館の蔵書2万冊に盗難防止シールを貼る作業が行われた。担当したのは、12名のパート従業員。おかしなことに、その作業を始めるのは、毎日就業時間が終わって一度タイムカード押した後。しかも、報酬は残業代としてではなく、1枚7円の完全出来高制賃金であり、“内職”として扱われた。

 実際に作業を始めてみると、時給換算で180円程度にしかならない。この指定管理者は地元で長年金属加工業を営む町工場だったため、内職を活用するのは人件費を低く抑える“腕の見せ所”だったのかもしれないが、公務でそのような労働は前代未聞だ。

 その様子をそばで見ていた女性副館長は、そのような脱法行為は到底許されないと、作業中止を上司に強く進言したが、その意見は聞き入れられることなく作業は最後まで進められた。

 翌年1月、会社側はこの女性副館長に、4月以降の契約更新をしないと伝えた。雇い止めの理由の明示を求めると、会社は「業務を遂行する能力・勤務態度が十分でないと認められるため」と文書で回答。

 思い当たり節は何ひとつなく、内職作業の中止を進言したことへの報復としか思えなかった女性は地元のコミュニティユニオンに加盟し、団体交渉で雇い止めの理由について問いただしたが、この会社も「1年ごとの有期雇用で、契約満了にすぎない」と繰り返すのみ。

 そこで女性は、労働基準監督署へ最低賃金違反行為を告発するとともに、区の公益通報窓口にも通報。すると4カ月後、労基署がこの指定管理者の本社に立ち入り調査を行い、最低賃金法違反の行為を正式に認定して是正勧告を出した。

 区の公益監察員も1年かけて関係者に聴取した結果、女性の主張をほぼ全面的に認めて「公益通報者保護法に違反している可能性が高い」とまで言及した報告書を区長に提出した。

 しかし、どちらの役所も告発者の雇用継続に関しては、まったくノータッチ。女性は、仕方なく地位確認を求めて一昨年夏、東京地方裁判所に雇用主を提訴したのである。

 そして今年3月、「雇い止めは無効」との地裁判決が出て女性は完全勝訴。会社側は即日控訴したものの、8月に出た高等裁判所の判決も地裁と同じ「雇い止めは無効」との判断だった。

やりたい放題の指定管理者

 スタッフを全員1年契約にしておけば、自らに楯突く者は更新時に自由に切れるという経営者のもくろみはものの見事に砕かれ、司法は「1年ごとの契約社員であっても、契約が更新されると期待することに合理性はあり、会社が更新を拒絶する合理的理由は見当たらない」と断じたのである。

 訴えられた会社は、昨年、指定管理期間5年の満了を翌年に控え、次の5年間の指定管理者募集にもエントリーはしたものの、このほかにも、さまざまな違法行為を犯していたことが判明し、今年4月以降、指定管理者から外れることになった。そのため、この女性も残念ながら、元の職場への復職することは結果的にできなかったのである。

 指定管理者となった民間企業にとって、労働争議が訴訟にまで発展するのはある意味、信用面では致命的ともいえる事態なのだが、それでも平気で訴訟継続するのは、不祥事を犯した民間事業者に対して、発注側の役所が強い態度でペナルティーを課すことはほとんどないことをよく知っているからだ。

 一度指定管理者になってしまえば、以後はよほどの大事件を犯さない限り、「利権」と言ってもいいくらい強固な利益基盤を手に入れられ、多少のコンプライアンス違反は気にせず「やりたい放題」となる。

 では、いったいどのようにして指定管理者は選定されているのか。次回は、その驚きの実態に迫っていこう。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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