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ツタヤ図書館だけじゃない!公共施設、民間委託のトンデモ実態 違法行為オンパレード

文=日向咲嗣/ジャーナリスト

ツタヤ図書館だけじゃない!公共施設、民間委託のトンデモ実態 違法行為オンパレードの画像1指定管理者施設に勤務する労働者の多くは1年ごとの契約社員であるため、会社に逆らうと翌年から更新拒絶される恐怖に怯えながら勤務している。画像は、足立区地域学習センターに勤務していた男性職員が待遇改善を求めただけで更新拒絶されたとして、雇用継続を求めて提訴したことを報じるNHKニュース映像
 ビデオレンタルショップ「TSUTAYA」を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が、2013年から運営している佐賀県武雄市図書館が話題を呼んでいる。全国的にも注目され、その経済効果は20億円にも達したと報じられたが、一方で図書館業務を安易に民間委託することへの批判も少なからず巻き起こっていた。

 そこへきて、購入図書の選定方法や仕入れ方法などに疑惑が湧き上がり、市民団体が同図書館のCCCへの委託を推進した前市長を相手取って損害賠償を求める事件にまで発展している。

足立区の公共施設指定管理者にも疑惑

 だが、公共施設の民間委託にかかわる問題は武雄市だけのものではない。東京・足立区でも不可解な動きがあった――。

「それでは、時間になりましたので、平成27年度地域学習センターの指定管理者募集説明会を始めさせていただきます」

 司会進行役を務める女性職員の張りのある声がマイクを通して会場に響くと、それまでざわついていた空気が一瞬張り詰めて静かになった。

 昨年7月1日のことである。足立区が指定管理者を募集し、それに応募しようという業者への説明会が開かれた。指定管理者制は、地方公共団体が公の施設を期間限定で指定業者に管理させる制度のことだ。この時、100人程度は収容可能と思われる足立区役所本庁舎13階大会議室の席は、6割方埋まっていて、「大手は参加しないから、ガラガラに違いない」という筆者の予想は、ものの見事に外れた。

 首都圏はもちろん、全国各地から公共施設の運営業務受託に乗り出している企業の担当者がこぞって参加している模様で、男性ばかりでなく、スーツに身を包んだ若い女性の姿もちらほらみつけることができる。多くは、1社につき2~3人のチームでの参加だ。

 募集対象となったのは、足立区立の「地域学習センター」と呼ばれる9カ所の公共施設。いずれも公民館と公共図書館が同じ施設に同居する、いわゆる「複合施設」である。

 この説明会に参加しないと、翌年から5年間、施設の運営を丸ごと担当する指定管理者募集の一次審査にプロポーザルを提出できないため、検討している会社はすべて出席しているはずだ。

 筆者は、これら公共施設の指定管理受託を検討している某法人の担当者として事前に参加申し込みをして、当日の参加資格を得たのだが、密かに関心を抱いていたのは以下の2点であった。

(1)現在、2つの地域学習センターの指定管理者となっているT社は2年前、時給180円でパート職員を働かせていたとして労働基準監督署から是正勧告を受けたが、指定管理者選考への応募資格があるのか

(2)もしT社が2つの地域学習センターの指定管理から外れるとしたら、その後釜には、どこの事業者が座るのか。ほかの施設を受託している地元ライバル企業が受託するのか、それとも区外からきた大手の事業者が受託するのか

 会場に到着するなり、(1)はすぐに判明した。会場前列のほうに、T社の施設管理事業を統括する経営者が社員を従えて出席していたからだ。この経営者の表情は、自信に満ち溢れているように見えた。指名停止等の処分を受けていたとしたら、説明会には出席しないはずだが、堂々と出席しているということは「応募資格あり」と判断されているのだろう。

 (2)については、関係者すらまったく予想だにできなかった、ジェットコースターのような展開が、この後に待ち受けていたのである。

不祥事を起こしても処分なし

 10月2日付当サイト記事『図書館の民間委託、めちゃくちゃな運営で訴訟続出!パートを時給180円で酷使』において、公務を受託する民間事業者が不祥事を犯しても平然としているのは、発注者である役所が不祥事を犯した受託事業者に対してペナルティーを課さないからだ、と述べた。

 T社のケースは、まさにその典型例だ。図書館内で行われた最低賃金法違反行為の中止を進言した女性副館長が、不当に雇い止めされたとして区に公益通報を行い、第三者機関である公益監察員が1年かけて多数の関係者に聴取した。

 そして、「公益通報者保護法に違反している可能性が高い」と結論づけた報告書が区長に提出された。それにもかかわらず、指定管理者に対しては文書で注意処分(後に改善指導)がなされただけで、指定取り消し等の厳しい処分は何もなかった。

 さらに区は、指定期間満了後の次の5年間も、不祥事を起こした企業に同じ施設の管理運営を任せようとしていることが判明した。これは常識では考えられない事態だ。

告発者を次々解雇する悪徳業者

 足立区が毎年行っている指定管理者の募集要項には、応募資格の欠格事項として、以下のような条項が盛り込まれている。

「団体又はその代表者が、指定管理者として行う業務に関連する法規に違反するとして関係機関に認定された日から2年を経過しない者」

 元副館長の告発によって、T社が労基署から是正勧告を受けたのは2012年6月。平成27年指定管理者の一次書類審査の締切は14年7月だから2年は経過しており、ギリギリセーフとなる。

 ところが、である。実は、問題が起きた図書館に併設されている地域学習センターに勤務する男性職員が、同じ頃に雇用主のT社を労基署に告発していたのだ。

 男性は、T社が法律で定められている最低限の就業規則を作成していないことや、従業員に時間外労働をさせるために必要な三六協定を労働者の代表と締結する手続きを踏んでいないことなどを再三会社に指摘して改善を求めた。しかし会社は対処しようとしなかったため労基署に申告したのだ。その件でもT社は労基署から違法行為を認定されて是正勧告を受けた。

 その是正勧告が出されたのは、12年10月。つまり、今回の指定管理者募集時にはまだ2年経過していないため応募資格がないことになる。14年7月末締切の指定管理者募集には応募できないはずだ。つまり、翌年度からは、現在受託している2つの地域学習センターの指定管理者から外れることがほぼ決定したといえる。

 T社とすれば、受託している2施設の運営委託料は合計2億円近いため、経営に大きな打撃を受ける。何がなんでも応募したいだろうが、明文化されたルールでそう決まってる以上、今さらどうすることもできないはずだ。

「足立区は腐敗している」

 ところが、この後、信じられないような大どんでん返しが起きたのである。

 説明会からさかのぼること2週間ほど前のこと。足立区議会の総務委員会で、実におかしなアジェンダ(議案)が話し合われていた。それは、前出の指定管理者の応募資格の欠格事項に、以下の一文を追加することだった。

「但し、法規違反の認定より3カ月以内に改善されるなど、改善意欲が確実に認められる場合は、選定委員会の意見を付して区長決定により、応募資格の欠格期間を『1年』にまで短縮することができる」

 要するに、不法行為を犯したからといって2年も応募できないのは気の毒だから、事情次第では、それを1年に短縮してあげるという意味である。

 これまでの経過を知る者ならば、「あからさまなT社救済ではないか」との疑惑を持つわけだが、担当課長は「悪質ではない単純ミスを救済したいだけ」という主旨の答弁で逃げようとする。そこで、ひとりの委員が、「応募資格をそのように改定しなければならないほど不都合が出た具体的事例を挙げよ」と強く詰め寄ったが、担当課長は「一般論で検討しているもので、特定の事業者を勘案して行ったものではない」とかわした。

 結果は、与党会派の賛成によって議案通り条文は改定された。追及した野党議員は「後から調べたら、該当するのはT社しかないことがわかりました。まさに足立区役所は腐敗しているとしかいいようがない」と、憤慨する。

応募するだけで受託成功

 こうして、ほんの数日前まで応募資格がなかったT社は、区の「特別なはからい」によって、不死鳥のごとく蘇った。

 足立区における指定管理者選考の実態を知っている人ならば、この瞬間に、T社が2つの図書館併設センターを、次の5年間も続けて受託することがほぼ確定的になったと理解するだろう。

 なぜならば、選考会においては、区内の事業者が圧倒的に有利になる独自の採点方式や、過去5年間の区内指定管理者としての経験が相当に重視されるからだ。過去の事業者選定事例を詳しく見てみれば、その内情を知る区外大手業者は無駄な労力をかけて応募すらしてこないため、ほとんどの施設が競合しない一社単独応募。つまり、受託中の区内事業者の場合、応募資格さえクリアすれば受かったも同然なのだ。

“爆弾文書”が届く

 しかし、世の中、一寸先は闇。何が起きるかわからない。まだドラマの劇的なクライマックスが待ち受けていたのだ。

 指定管理者への応募資格が改定された総務委員会が開催された数日後、足立区の公益監察員を務める弁護士のもとに一通の封書が届いた。

 その封書には、「足立区公益監察制度に基づく告発」と題された文書が入っており、T社が犯した数々の法令違反事実について詳細に書かれていたのだ。

 差出人は、T社が管理している地域学習センターに契約社員として勤務していた男性だ。彼もまた、元副館長の女性と同じくコンプライアンス違反を告発した翌年に、T社から雇い止めを受けていた。

 4月以降、会社と団体交渉をしていたが、会社側は「有期雇用の期間満了にすぎない」と繰り返すのみで取り合わなかったため、区に同社の不法行為について公益通報したという。

 就業規則作成の不備、30分未満の残業代不払い、法定労働時間超過分の割増賃金不払い、求人票の虚偽表示、他のスタッフに対するパワハラ・退職強要など、男性職員が公益通報した違法行為は、なんと15ケースにも及んでいた。

 足立区も、さすがにこれだけの違法行為があった事実を見逃すわけにはいかない。コンプライアンス部門が後日、この男性を呼んで詳しい事情を聞き、調査を開始すると同時に通報のあった事実を指定管理者選定委員会にも報告した。

 その翌々月の昨年8月、この男性は職員としての地位確認を求めて東京地方裁判所にT社を提訴した。この会見の模様は、ちょうど1年前の元副館長のときと同じく、テレビのニュースや新聞などでも取り上げられた。

「正義」が執行された瞬間

 自社が指定管理者となっていた図書館と学習センターの両方において、ひとつやふたつではない法令違反を2人のスタッフから告発され、そのどちらも雇い止めにしていた事実は、指定管理者制度の闇の深さをあらためて浮き彫りにした。

 特に、後から発覚した学習センター勤務の男性による公益通報は、指定管理者選考を間近に控えていただけに、関係者に与えた衝撃は決して小さくなかったはずだ。

 これほど違法行為だらけの事業者を再度指定管理者として選定すれば、その批判の大きさは非常に大きいと判断し、区は方向転換せざるを得なかったのだろう。総務委員会で応募資格を改定してまで企んだ指定管理者の選考は振り出しに戻ったのだ。

 かくして14年9月1日、15年度指定管理者募集の第一次選考において、選考委員会は、T社を最終的に「応募資格なし」と判定して不合格にした。これによりT社は15年4月以降、公共施設の指定管理者から外れることになった。「正義」が執行された貴重な瞬間である。

 それは、2人の労働者の勇気ある告発がもたらした正義である。どちらかひとりでも欠けていれば、不法行為だらけの業者が、次の5年間も図書館を含む公共施設の運営を何食わぬ顔をして継続していた可能性は限りなく高い。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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