KENZO ESTATEというレストランが大阪にある。フレンチなのだが、板前もいて和食と競作した独自メニューがおもしろい。しかし、ここは「ワインバー&ワインショップ」と名乗っている。というのは、アメリカでのワインの本場、カリフォルニア州ナパに同名のワイナリーを持っていて、そのフレンチ・レストランは、自社ワインを宣伝するアンテナ・ショップでもある。料理にワインを合わせるのではなく、KENZOワインに合った料理を提供するということらしい。
ワイナリーは、オーナーである辻本憲三氏の名が付けられた。辻本氏は、ゲームソフトメーカー・カプコンの創業者で現会長兼CEO(最高経営責任者)だ。ナパからカプコンが撤退した跡地を個人で購入してワイナリーを始めたのが1990年代のことだった。KENZO ESTATEの「あさつゆ」が2011年以降数々の賞を獲得し、「幻のワイン」といった人気となっている。大阪などの同社レストランではもちろん提供されている。
ヨーロッパを追いこしたワインの聖地ナパ
9月にKENZO ESTATEで食事して、「あさつゆ」の豊潤さに感心した私は、10月末にサンフランシスコを訪れた際に「一日ナパ・ワイナリー・ツアー」に参加した。
ナパは、サンフランシスコの北に車で1時間ほどのカウンティ(郡)で、南北8km、東西48kmほどの広さだ。傾斜地にあるのでナパ・バレー(谷)とも呼ばれている。アメリカでのワインの生産の90%はカリフォルニア州に集中していて、なかでもナパには400を超すワイナリーがあるという。
サンフランシスコも霧で有名だが、ナパも同様な気候で朝夕の寒暖差が激しく、雨量は少ない。これがワイン用のブドウの育成にぴったりだという。同地では19世紀からワインの醸造が始まっていたが、1976年のパリ万博でボルドーやブルゴーニュの名門ワイナリーを押さえて第1位となり名声を確立した。
私が参加したツアーでは、特別にリクエストしているオーパス・ワンというワイナリーを訪問した。ここはカリフォルニア・ワインの父といわれたロバート・モンダヴィが開設したワイナリーで、現在もナパでトップ・クラスだ。
モンダヴィで興味深いのは、彼が農民や醸造技術者ではなく、名門スタンフォード大で経営学を専攻したビジネス企業家だったということだろう。マーケティング的な手法でカリフォルニアのワインを世界中に知らしめた。ボルドーなど、ヨーロッパの産地では伝統的な運営形態が続けられているが、カリフォルニアでは近代的な企業ビジネスとして「経営」されるようになった。