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片山修「ずたぶくろ経営論」

奇跡づくしで常識破壊、ホンダジェットが離陸…利益ゼロで30年間開発続行の死闘

文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家
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奇跡づくしで常識破壊、ホンダジェットが離陸…利益ゼロで30年間開発続行の死闘の画像1ホンダエアクラフトカンパニーの工場内(筆者撮影)

「実は、今日、『ホンダジェット』にFAA(米国連邦航空局)の型式証明がおりたんです。アトランタで証明書を受け取って、今、帰ってきたところです。ランチに同席できなくて、すみませんでした」

 2015年12月8日、午後2時。

 米ノースカロライナ州グリーンズボロにあるホンダエアクラフトカンパニー本社の応接室に現れた、同社長兼CEOの藤野道格氏は、インタビューの冒頭、こう切り出した。彼はこの日、午前のうちに、グリーンズボロから約500キロ離れたジョージア州アトランタにビジネス・ジェットで出向き、FAAから「ホンダジェット」の型式証明書を受けとって、トンボ帰りしてきたばかりだったのだ。

 FAAの型式証明取得によって、「ホンダジェット」は、FAAの定める強度や性能、安全性、機能、信頼性など膨大な数の厳格な基準を満たしていると認められたことになる。この日、ホンダは、航空機研究開始から約30年を経て、ついに民間機市場に参入する正式な許可を得たのである。

 自動車メーカーが航空機市場に参入する例は、世界的に見て、過去にほぼ例がない。藤野氏が、待ちに待った日だ。彼にとって、いや、ホンダにとって、特別な日といえる。「夢みたいな感じで、冗談半分に『ほっぺたをつねって』と言ったほどです」と言って、藤野氏は、興奮冷めやらぬ表情で、次のように続けた。

「飛行機業界で働く人間にとって、型式証明の取得というものは、一生に一回あるかないかの『ピーク・エクスペリエンス(至高体験)』です。今改めて振り返ってみると、飛行機設計者として今まで4機の飛行機を設計しましたが、認定プロセスすなわち型式証明の取得というプロセスを経験しなければ、本当の意味での航空人としての人生は、決してわからないと思います」

ゼロからのスタート

 1986年、ホンダは、極秘裏に航空機の研究を開始した。藤野氏は、84年にホンダに入社し、自動車エンジニアとして働いていた。86年の航空機研究開始当初から研究に携わり、97年、ホンダが航空機開発を公にした頃からは、プロジェクトのトップを務めてきた。

「既存の航空機メーカーでも、新しい飛行機をつくることはとても大変なことです。しかも、我々には飛行機の技術はまったくなく研究はゼロから。組織や会社もゼロから。そして、認定の基盤もゼロから。すべてがゼロからのスタートだったんです」(藤野氏)

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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