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片山修「ずたぶくろ経営論」

奇跡づくしで常識破壊、ホンダジェットが離陸…利益ゼロで30年間開発続行の死闘

文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

 実際、これは、主翼の削り出しを決めた当時のビジネス・ジェットの業界の常識からいっても、あり得ない話だった。

「初めのうちはいくら話しても、みんな『信じられない』といいました。でも、私が一体削り出しのコンセプトを発案した当時、NCマシンのテクノロジーはどんどん進歩してきていたんです。何千というリベットを手作業で一本ずつ打つより、一気に一体で削ったほうが速いし、人のミスが入り込む可能性も少ない。当時のNCマシンの技術進化はすさまじく、10年単位で見れば、絶対に機械加工のほうがいいのではないかと思っていました。実際、いまや断然そうなっています」

 翼の表面にまでこだわり、徹底的に空気抵抗を減らしたことから、ホンダジェットは、クラス最高のスピードを達成している。機体の抵抗が小さいことから、降下や着陸時に空気抵抗を増加して減速するために、機体最尾部が左右に開くタイプのスピードブレーキ(民間機には珍しい形態のスピードブレーキ)が搭載されている。

ビジネス・ジェットの常識を逸脱

 さらに、「ホンダジェット」の特徴の一つが、鋭い顔つきである。これは、コックピットを覆うウインドシールド(風防)が、三次元曲面でできていることとも関係している。戦闘機などを除けば、三次元曲面の風防を採用したビジネス・ジェットは「ホンダジェット」が初めてだ。

「最初は部品メーカーに『製作はできない』とまで言われました。飛行機の風防は、厚さで1インチほどありますから、それを三次元曲面にゆがみや誤差なく成型するのは、とても難しいんです。でも、サプライヤーと何回もトライしながらやっていくことで、成型プロセスをつくり上げました。もちろん美しいだけでなく、空力的にも優れています」

 ほかにも、機体そのものは、多くの航空機の機体が、輪切りの部品をつなぎ合わせてつくられるのに対し、「ホンダジェット」の胴体は、メス型を用いて成型された左右2つの部品を中央部で接着してつくられる。

 機体の筒状(一定断面)の部分と、複雑な三次元曲面をつくるノーズやテールなどは、素材は同じカーボンコンポジットを用いているが、構造様式は種類が異なる。その為、異なる構造様式の構造を一回で成形するには、圧力や温度などの複雑なコントロールが必要で、高い技術が求められる。ホンダは、その特許を取得した。

 コックピットも、洗練されている。操縦桿の脇のセンターコンソールには2つのタッチスクリーン式のディスプレイが設置されているのだ。

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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