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出生前診断騒動が欠く“普通に生きる”ダウン症の人たちの実態

文=越膳綾子
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出生前診断騒動が欠く“普通に生きる”ダウン症の人たちの実態の画像1「日本ダウン症協会HP」より
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 母親の血液を解析するだけで、妊娠中の胎児に「ダウン症」などの染色体異常があるか否かが、99%の確率でわかる出生前診断。この秋から日本国内の約10施設で、新しい検査法の臨床研究が始まろうとしているが、その手軽さゆえに、検査を受け、安易に堕胎するケースが増えるのではないかと議論を呼んでいる。

 8月末、臨床研究の開始について各メディアが一斉に報じて以降、テレビでは朝の情報番組が繰り返しこのテーマを扱い、NHKの特集番組『出生前診断 そのとき夫婦は』(9月16日放送)が大きな反響を呼ぶなど、世間の関心が集まっている。

 しかし、メディアの報道などを見ると、ダウン症のある人を取り巻く環境の実態についてどれだけ理解されているのか、疑問を抱かざるを得ないものが多い。 

 約50年間にわたり、ダウン症のある人やその家族の支援を行ってきた財団法人日本ダウン症協会(以下、協会)によると、ダウン症の発生頻度はおよそ1000人に1人。21番染色体が1本多い突然変異による疾患で、多くの場合、知的な発達に遅れが見られる。筋肉の緊張度が低く身体の発達はゆっくりしており、心疾患を伴うケースもある。

 実際にダウン症のある子どもを持つAさんは、出産から1カ月後に我が子がダウン症であるという確定診断を受けた。当時の気持ちをこう打ち明ける。

「診断が確定したときは、診察室のイスで、ただただ涙を流したことを覚えています。兄弟たちがいじめられるんじゃないか? 私は二度と笑うことはできないんじゃないか?と悲観していました」

 診断を受けた直後は、どんな母親でも悲しみ、深く落ち込む。

 では、ダウン症の子を育てるのは、いったいどれだけ大変なものなのであろうか?

 まず気になるのが、経済的な負担だ。結論から言うと、かつては裕福な家庭でなければ障害児を育てられないといわれたが、「現在では国や自治体にはさまざまな支援制度があり、家族に特別な出費などの負担がかかるようなことはない」(Aさん)という。

 支援を受けるには、まず知的障害の程度を認定する「療育手帳」(東京都は「愛の手帳」)を取得するところから始まる。

「1~4度まで段階があり、数字が小さいほど重度になります。ダウン症の場合は、だいたい4度もしくは3度に認定されます」(協会常任理事・清野弘子さん)

 手帳を取得すれば、次のような支援制度が受けられる。

 受給条件は自治体によって異なるが、例として、清野さんが居住する地域では、療育手帳1~3度の場合、心身障害者福祉手当、特別児童扶養手当、児童育成手当として、月額合計約5万円の支援を受けられる。

 また、税金の軽減のほか、区の福祉サービスとして、緊急一時保護(一時的に子どもを施設に預ける)、移動支援(外出時の送迎)、JR・私鉄・バスなど各種交通運賃の割引などを受けられる。

 医療費については、ダウン症であるかどうかにかかわらず、一般の子どもも含めて、過半数の自治体では中学生以下の入院費が無料である。以前は「ダウン症のある子は短命」といわれた時代もあったが、近年では出生後の手術などが一般化し、平均寿命との大きな乖離は見られなくなった。

 学校に関しては多くの場合、小中学校は公立の普通学級または特別支援学級に在籍し、高校は特別支援学校に進むことが多い。なかには大学進学を果たすケースもある。

 経済的な面だけで見れば、ダウン症の子が大人になって以降も、案外心配はないようだ。20歳になると障害基礎年金(国民年金)を受給でき、等級にもよるが月額8~10万円。療育手帳が重度の場合は、心身障害者医療費の助成で、65歳まで医療費が無料または一部免除となる。

 加えて、福祉施設や作業所で封筒のラベル貼り、雑誌付録の封入といった軽作業をすることで工賃(月1~2万円)を得たり、企業に就職して給料を得ることができる。親が亡くなったあとは、グループホームや施設で暮らすことになるが、「今のところ、公的支援や作業所の工賃などでなんとか足ります。兄弟に金銭的な負担が及ぶことはありません」と清野さんは言う。完全に十分とはいえないまでも、公的な支援制度によって「高齢の親が、中高年になったダウン症のある子どもの面倒を見られなくなり困る」という事態もほぼないようだ。

飛行機への搭乗を拒否?ダウン症の人への差別

 それでは、前出のAさんが心配していた「いじめ」など差別についてはどうなのか?

 今年9月、ダウン症のある息子を連れたアメリカ人の夫婦が、同国で飛行機への搭乗を拒否される事件が起きたが、国内でも類似の事態がないわけではない。協会理事・水戸川真由美さんの知人のケースでは、遊園地でアトラクションに乗ろうとしたダウン症のある子が「暴れないですか?」と言われ、係員に怪訝そうにされたという。

 子ども同士の社会では、もっと直截的だ。「集団登校でみんなが手をつなぐのに、私の知人のダウン症の娘さんは伝染病だと思われて誰も手をつながなかった」(Aさん)ということが実際にある。

 これらはおしなべて無知による悲劇である。小学校によっては特別支援学級がなく、ダウン症ほか障害児とのかかわりがほとんどないまま育つ子どもがいる。結果、心ない言葉を発してしまう場合があるわけだが、前出の清野さんは、小学生に対してこんな出張授業を行っている。

「例えば、ダウン症の子は一度にいろんなことを言われても、うまく理解できないことを伝えるために、4コママンガで説明することもありますが、理解が広がるのを感じています」(清野さん)

 Aさんは、「今思うと、子どもにダウン症があるとわかった当初は、ずいぶんこの障害への未知の恐ろしさにおびえていたんだなと思います。ダウン症があっても、普通に暮らせるし、成長します」と笑顔を見せる。

 これまで見てきたように、世間で思われている以上に、ダウン症のある人は”普通の生活”を送ることができる環境が整っている。この現実を踏まえると、生まれる前に子どもを振り分け、安易な堕胎を助長しかねないような新型出生前診断・検査は、果たして本当に必要なのかとも思われる。一方で、出産前に我が子がダウン症とわかることで、早いうちに医療や福祉サービスを受けることができるという見方もあり、検査の是非を一概に言うことはできない。日本産科婦人科学会は、指針を作成する方針だが、国民一人ひとりが主体的に考えるべき時期にきているのではないか。
(文=越膳綾子)

越膳綾子

越膳綾子

フリーランスライター。編集プロダクションをへて、2012年からフリーに。主に医療、介護、障害者福祉、女性の働き方について取材・執筆をしている。

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