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JR、ずさんなサービス品質の実態〜安全対応軽視、黙り込む駅員、顧客無視のシステム

文=長田貴仁
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JR、ずさんなサービス品質の実態〜安全対応軽視、黙り込む駅員、顧客無視のシステムの画像1「Thinkstock」より
 JR東海によるリニア新幹線計画の発表、JR西日本福知山線脱線事故における経営陣への無罪判決、JR北海道で多発する事故など、明暗双方で、JRグループ関連の報道が最近相次いだ。それらはいずれもハード(運行)であり、ソフト(サービス)に関する落ち度についてはあまり報じられることはない。

 しかし、ネットでも散見されるが、JRグループのサービスに対して、賞賛する意見はあまり見られない。特にJRのドル箱路線とされている東海道新幹線に対しては、不満の声が渦巻いている。毎週、東海道新幹線に乗車している筆者も、決して満足しているわけではない。先日もホスピタリティ関連の学会で東海道新幹線が提供するサービスの不備について言及したところ、会場でうなずく人が多く見られた。いわば東海道新幹線のサービスの悪さは「一部の世論」になってきているのではないだろうか。

 こうした意見が出てくるからといって、JR東海およびその関連会社に勤めておられる方々全員にサービス精神がない、と言っているわけではない。一生懸命サービスに気を配っている方がたくさんおられることは熟知している。例えば、東京駅に到着した新幹線を短時間で清掃してしまうスペシャリストたちや、駅の売店で瞬時にお釣りを計算して多くの客を短時間でさばいている販売員を見ていると、短い間隔のダイヤに基づき正確に安全高速運行できる技術と同様、これらも世界に誇れる技といえよう。

 では、なぜ「悪しき世論」が形成されたのだろうか。

 それは、誰の目にも留まる、気づくサービスに落ち度があるからだろう。つまり、いくら世界に誇れる安全高速運行を実践していても、利用者が不満を感じれば、すべて水の泡になる。

お客とコミュニケーションを取れない改札駅員

 例えば、最近筆者が体験した事例をいくつか挙げてみよう。

 東京駅の改札駅員の対応である。質問をすると数分間、黙って考え込んでしまった。しびれを切らして、こちらが「ご存じなのですか」と聞くと、「すみません」の一言もなく無表情で「わかりません」で済ましてしまう。わからないのであれば、なぜ、知っている周囲の職(社)員にすぐに聞くという対応をとらないのだろうか。不思議でならない。コミュニケーション能力が欠如しているだけでなく、駅員なら常識と思われることを知らなかったのである。その間、客である筆者の時間は無意味に失われた。つまり、JR東海は顧客の貴重な時間を盗んだことになる。

 ほかにも信じられない「無知な駅員」を品川駅で目にした。老人男性が「京成線に乗り換えるにはどうしたらいいでしょうか」と尋ねた。なんと若い男性駅員は、路線図らしきものを取り出し、調べ始めたのである。またもや、「わからないので調べます」とも言わないで無言でページをめくっている。京浜急行「品川駅」からも京成線につながるが、その老人は追加料金なしでJR東日本へ乗り換えられる切符を持っていたので、そばにいた私は「日暮里駅で乗り換えられればいいですよ」と助け舟を出した。山手線を走らせているJR東日本の職員ではないにせよ、JR東海の品川駅駅員が、近隣の乗り換え駅を知らないでは話にならない。たとえ地方出身の東京に不慣れな新入社員であったとしても、許されるべき勤務姿勢ではない。

 またもや、東京駅での出来事である。男性の声で英語アナウンスが流れた。どう贔屓目に聞いても「通じない英語」である。少なくとも、外国人観光客が多く行き交う東京駅で流す英語ではない。実際、アメリカ人に感想を聞いてみると「何を言っているのか、さっぱりわからない」と困惑していた。これで「観光立国」を標榜できるのかどうか、心配になってくる。

 東海道新幹線車内でも、信じられないことが起こった。去る8月8日夕、奈良県と大阪府で震度6弱から7程度の揺れを予想し、関東甲信から九州までの広範囲に緊急地震速報が流れたとき、筆者は東海道新幹線の「のぞみ」下りに乗っていた。車内で携帯電話(スマートフォン)の「ビュービュー」という災害緊急情報が車内で一斉に鳴り響き、車内は騒然となった。「のぞみ」は品川駅に到着した頃だった。なんと、タイミング悪く、その瞬間に「車内販売は終了させていただきます」という録音アナウンスが流れたのである。地震に関する情報を知らせたのは、車内販売終了のアナウンスのしばらく後である。それも日本語のみ。乗車していた外国人は本当に不安な表情をし、連れの人たちと「どうすればいいの」と確認し合っていた。幸いこの緊急地震速報は誤報であったが、状況報告のない沈黙の時間はあまりにも長く感じられた。

安全軽視の駅や車両の構造

 東海道新幹線のサービスの低品質ぶりは、駅や車両の構造、インターネット予約にも見られる。

 例えば、東京駅を見渡せば、多くのカートを引っ張った乗客が通行している。外国人観光客とみられる人たちに限れば、1~2週間滞在用の大型スーツケースを2つも引っ張っている光景が珍しくない。ところが、東京駅の改札前のメイン・フロアでは、カート用のスロープが一路あるだけ。それ以外は、階段と小さなエスカレーターが一機設置してあるのみ。ほとんどの人がスーツケースを重たそうに持ち上げ、階段を上っている。数段の階段とはいえ、急いでいるときは思わぬ大きな障害になる。

 こうした大きなスーツケースを引っ張り、新幹線に乗り込んでも、置くところは最後列の座席の後ろしかない。それも、セキュリティ対策はゼロ。そもそも、新幹線の車両全体が、いつテロに遭ってもおかしくないほど、車内安全には無頓着である。

 高齢社会に対応したバリアフリー対策も十分とはいえない。要介護認定を受けている高齢者でも、外出する場合は、介護人が介助しながら、車椅子を使わず押し車や杖を頼りに移動することがある。ところがその際、足腰が弱った高齢者は長い距離が歩けないのである。

 このような場合、車椅子の援助を駅員にお願いすればいい、ということになっているが、いちいち事前に連絡するのも面倒と思っている高齢者、介護人は少なくない。将来、高齢者が急増するのだから、駅員が個々のケースに対応して介護するという対策では追いつかなくなるだろう。駅の構造、システムを抜本的に改良しなくてはならないのではないか。

 ところが、長い列車が停車する新幹線駅構内には、ホームに上るエスカレーターは1カ所しかなく、とにかく「歩け、歩け」が前提になっている。働き盛りのビジネスマンを主要顧客にしていた、高度経済成長期の感覚のままで対応していると見られても仕方あるまい。JR東海の対応は、「高齢者は乗るな」というメッセージを出しているのと同然である。これでは、社会貢献に熱心な企業とはいえない。経営理念に書かれている「健全な経営による世の中への貢献」は絵に描いた餅といえよう。

「顧客ニーズ軽視」のネット予約システム

 普及著しいインターネット予約については、需要側(顧客)のニーズを軽視したとも受け取れる供給側(JR東海)の論理が垣間見られる。接触型ICカードで乗車できる「EX-ICサービス」は、その典型だ。そもそも、このサービスのネーミングも一ひねりしてほしかった。誰に耳を傾け、誰がこのような、具体的なサービスを直観的にイメージできない名称をつけたのだろうか。「これで、わかるだろう」という思い込みに基づく、「事実上独占企業」JR東海ならではの、プロダクト・アウト、上から目線の体質が表れている。

 1987年、国鉄の分割民営化に伴い、JR東日本が「国電」に代わる名称を公募した。その結果、「E電」なる新名称を使い始めた。結局、まったく定着せず、いつのまにか消えてしまった。広く一般人から公募したというプロセスが言い訳になっているかもしれないが、最後に採用を決めたのはJR東日本である。

 メーカーであれば、商品名は命である。雑誌、書籍の編集などに携わった者であれば、誰しもわかるが、タイトルは社運を左右するといっても過言ではない。そのような感覚が、JRグループにあるのだろうか。供給側の論理で考えられたネーミングは、いずれもJRの人にとってはわかりやすいかもしれないが、老人などにはチンプンカンプンである。つまり、ネーミングに留まらず、サイトの使い勝手も含めてコンシューマー・オリエンテッド(顧客志向)ではない。ネットで「殿様商売」と揶揄されているゆえんである。

「EX-ICサービス」にある「e特急券」も然りである。同サイトを開いても、どのようなチケットなのか、使い方、特典など、わかりにくい点が多い。少なくとも、一目瞭然とはいかない。生命保険の定款かと思えるほど、細かな文字で、かつ、日本語として完成度が低いわかりにくい文章でだらだらと書いてある。文章を改良するのはいうまでもないが、ネットの表現技術が発達した今、図や写真、動画などを駆使して、わかりやすく表現しようとする発想はないのだろうか。

 使い勝手が悪いのは、バーチャルなサイト操作だけではない。リアルなやり取りでも今どき考えられない仕組みが存在する。「EX-ICサービス」では、サイトで事前予約し接触型ICカードを改札機にタッチして新幹線に乗車する方法だけでなく、あらかじめ切符を券売機で購入してから乗らざるを得ない予約条件が設定されている。

 同サービスをよく知らない東京在住の人が、この一文を読めば、例えば、山手線の池袋駅の券売機で切符を買えると思っているのではないだろうか。通常の新幹線の切符はJR東日本が運営する各駅の「みどりの窓口」で購入できるのだから、そう考えても不思議ではない。

 しかし、「EX-ICサービス」の場合、新幹線の駅がある東京駅と品川駅でしか切符を入手できないのである。利用者からすれば、JR東日本もJR東海も同じJRである。なぜ、池袋駅では買えないのか理解できないのではないか。ましてや、航空機のチケットがどこのコンビニでも買える時代にだ。

 ところが、JR東海の供給側の論理からすれば、同社管轄の駅である東京駅と品川駅だけで売っていて何がおかしい、と考えているのだろう。そんな考えはないと、といいたいかもしれないが、実態がすべてを物語っているのだから、言い訳の余地はない。

 このような使い勝手の悪いサイトゆえ、操作している中で疑問点がたびたび生じる。そのたびに、電話で問い合わせる。やっとオペレーターが出てきたかなと思うと、「少々お待ちください」といわれ「長い間」待たされる。なんのためのインターネット予約なのだろうか。それでも、駅でチケットを購入するよりも安く買えるから、インターネット予約を利用する人は少なくない。その結果、インターネット予約を顧客に利用させることにより、JR東海は人件費をはじめとするコストを削減できているはずである。不完全なシステムを利用させているのだから、顧客の犠牲のもとに、自社のコスト削減をはかっている、つまり、利用者の便宜よりも、自社の利益を優先している企業と見られてもおかしくあるまい。

「EX-ICサービス」をしょっちゅう使っている人たち数人に意見を聞いてみたが、同じような感想だった。日本人ですらこうである。外国からの観光客どころか、日本に住んでいる外国人も、このようなサービスではお手上げだ。

 2020年開催の東京オリンピックに向けて日本を訪れる外国人観光客は急増するだろう。成田や羽田の国際空港、関西、中部国際空港などが日本の玄関口だとすれば、JR東海は動く応接間である。そのサービスがこれほど不備でグローバル対応していないようでは、「おもてなし」も期待外れとなる。ハードを完璧にするのは運輸事業者として当たり前のこと。それと同様、グローバル対応型サービス産業としての自覚をJR東海に求めたい。

 以前、JRのホワイトカラー組(ミドル)数人と長時間話をしていたときのことを思い出した。冗談交じりだったが、いずれのJRマンからも、決まり文句のように出てきた言葉がある。「こんなタイプは出世できないんですよ」。実に伝統企業ならではの古典的なフレーズだが、これこそ、JRで上を目指している人たちの潜在心理かと勘繰った。皮肉だが、このような繊細な心理は、大いにサービス向上に使っていただきたいものだ。JR東海の経営理念の中には、「近代的で愛され親しまれ信頼されるサービスの提供」という一節があるのだが、ブラック・ユーモアなのだろうか。
(文=長田貴仁/経営学者、ジャーナリスト)

長田貴仁

長田貴仁

ビジネス誌「プレジデント」編集部を経て、2005年4月、神戸大学大学院経営学研究科助(准)教授に就任。研究・教育に携わる傍ら、同研究科が設立したNPO法人現代経営学研究所が発行する学術誌「ビジネス・インサイト」の編集責任者を務め、抜本的に改革する。その後、他3大学の社会人MBAや複数の大学の学部でも、客員教授、非常勤講師として教鞭を執ってきた。2013年4月から岡山商科大学に招かれ、15年から18年3月まで2期4年、経営学部長を務めた。日本人学生だけでなく、多くの留学生とも交流を深め、草の根のグローバル化を実践している。所属学会・研究所は、組織学会、日本経営学会、経営史学会、日本ベンチャー学会、企業家研究フォーラム、日本マーケティング学会、日本広報学会、経営行動科学学会、神戸大学経済経営研究所、現代経営学研究所。

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