日本経済新聞社がまとめた「2024年冬のボーナス調査」で1位(353万6481円)となったディスコ。同社をはじめとする半導体製造装置メーカーといえば、一般的には社名の認知度はそれほど高くはないが、社員の平均年間給与が高いことが一部で話題を呼んでいる。大手電機メーカーやメガバンクなどの大手金融機関と比較しても上回るか遜色ないレベルだが、その理由は何なのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
日本の半導体メーカーの衰退が叫ばれて久しい一方、世界の半導体メーカーに製造装置を販売する半導体製造装置メーカーは活況に沸いている。日本半導体製造装置協会(SEAJ)は、24年度の日本製半導体装置の売上高が初めて4兆円を超えると予想しているが、背景にあるのが世界的な半導体需要の高まりだ。先端DRAM、画像処理半導体(GPU)の生産が今後拡大していくなか、5G対応の基地局整備や電気自動車(EV)、人工知能(AI)など、あらゆる分野で半導体への需要が高まると予想されている。
一口に半導体製造装置メーカーといっても、各社ごとに扱う製品や強みは異なる。東京エレクトロンは「前工程」と呼ばれるシリコンウェーハに回路を描く製造装置に強みを持ち、手掛ける商品はコータ/デベロッパ、エッチング、洗浄、成膜、テスト、ウェーハボンダー/デボンダー、ウェーハエッジトリミング、ウェーハ薄化、SiCエピタキシャル、ガスクラスターイオンビームなど多岐の分野にわたる。半導体製造装置メーカーとしては世界で売上高4位のポジションにあり、塗布現像やガスケミカルエッチングなど計4分野で世界シェア1位、洗浄やプラズマエッチングなど計4分野で同2位を誇り(同社HPより)、世界で唯一、パターニングの4連続工程に装置を持つなど、高い技術力で知られる。
ディスコはダイシング(小さく切り分ける)、グラインディング(薄く削る)、ポリッシング(磨く)に関して高い技術を持つ。半導体の基板素材となるシリコンウェーハ製造工程、基盤ウェーハ上に回路を形成して半導体値チップをつくる工程、半導体チップを組み立てる工程などに使う製造装置を扱っている。
レーザーテックはEUVマスク裏面検査/クリーニング装置、高感度ウェハエッジ検査装置、SiCウェハ欠陥検査/レビュー装置、ハイブリッドレーザーマイクロスコープ、電気化学反応可視化コンフォーカルシステム、マスクブランクス欠陥検査/レビュー装置などを扱っている。
SCREENホールディングスはウェーハ洗浄装置、スピンプロセッサ、スピンスクラバ、コータ・デベロッパ、熱処理装置、後工程用露光装置などに強みを持つ。
アドバンテストは半導体テスト・システム、テスト・システム周辺機器、測長SEM/欠陥レビューSEMなどに強みを持つ。
レーザーテックの平均年間給与は1638万円
各社に共通しているのが、海外売上比率が高く、高い技術力を有して世界市場でトップクラスの商品を持つ点だが、社員の平均年間給与が高い点も特徴の一つだ。各社の前年度の有価証券報告書によれば、平均年間給与は以下となっている。
・ディスコ:1507万円
・東京エレクトロン:1273万円
・レーザーテック:1638万円
・SCREENホールディングス:1025万円
・アドバンテスト:1005万円
これらの金額は概ね大手電機メーカーや重電メーカー、自動車メーカーなどと比較しても上回っているか同等といえる水準だが、なぜ半導体製造装置メーカーの給与は高いのか。国際技術ジャーナリストで「News & Chips」編集長の津田建二氏はいう。
「たとえば大手電機メーカーの場合はおおよその金額が電機労連(全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会)をベースに決められ、そこから大きく差がある金額を社員に支払うのが難しいです。その点、半導体製造装置メーカーは各社が各年度の業績に基づいて自由に決めやすいという事情があるでしょうし、電機労連に加入している企業も、知名度が高い老舗の大手メーカーほどは電機労連の金額に縛られなくて済むという事情もあるでしょう。
2013年に米マイクロンに買収された日本の半導体メーカー・エルピーダメモリは、日立製作所と日本電気との資本関係がなくなってからは決算期の営業利益率が一定の数値を超えたら全従業員に賞与を支給するという制度を導入していましたが、半導体製造装置メーカーもそれに近いといえます。
年間給与が高いといっても、ベースとなる毎月の給料は抑えておいて、業績は良ければ賞与を300~400万円くらいポンと支給するというかたちです。業績が低いと100万円くらいに抑えるので、その分、年間給与も低くなります。このように年間給与が業績に連動して、会社の利益がきちんと社員に還元されるかたちになっていれば、社員のやる気も向上するというメリットがあります」
(文=Business Journal編集部、協力=津田建二/国際技術ジャーナリスト)
東京エレクトロンの強さの秘密
当サイトは2月29日付記事『時価総額3位に浮上、東京エレクトロンとは何者?純利益3千億円の優良大企業』で同社の経営に迫っていたが、以下に再掲載する。
※以下、肩書・数字・時間表記・固有名詞等は掲載当時のまま
――以下、再掲載――
今月、半導体装置メーカー・東京エレクトロンの株式時価総額がソニーグループやNTTなどを抜き、1位のトヨタ自動車、2位の三菱UFJフィナンシャル・グループに次ぐ3位に浮上したことが注目されている。一般的にはあまり馴染みのない東京エレクトロンとは、どのような企業なのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。
1963年に技術専門商社として創業した東京エレクトロンは、60年代には自社製品の製造にも着手し、86年には半導体製造装置の輸出を開始。3年後の89年には同装置メーカーとして売上高ベースで世界1位となる。
高い競争力の源泉となっているのが、研究・開発への惜しみない投資だ。国内外14の拠点で開発やコンソーシアムなどとの協業を行っており、25~29年度に計1.5兆円以上を研究開発に投資する計画。さらに今後5年で国内外で計1万人を新規採用する方針を掲げている。少し前には24年4月に入社する新入社員の初任給を一律約4割引き上げると発表したことが話題にもなった。
業績は成長トレンドで、24年3月期の売上高は1兆8300億円(前期は2.2兆円)、純利益は3400億円(同4715億円)の予想。従業員数は1万7000人(連結ベース)に上る優良大企業といえる。
半導体業界関係者はいう。
「同社の強みは幅広い分野で世界的に競争力の高い製品を持っている点だが、『伸びる』と踏んだ分野には果敢に研究開発費を投下する攻めの姿勢が成果を生んでいる。強みを持つ前工程に加え、後工程でも主力商品を育てるべく注力しており、全体的に商品構成のバランスが良いのは魅力的だ」
株価はさらに上昇する
そんな東京エレクトロンの株価も好調だ。米エヌビディアの好決算の発表を受け半導体関連企業の株価が軒並み上昇した22日、東京エレクトロンの終値は前日比6%高の3万6580円、時価総額は17兆2523億円となり、ソフトバンクグループ(SBG)や任天堂、三菱商事や伊藤忠商事などの総合商社などを差し置いて国内3位に浮上したのだ。
「2015年には業界2位の米アプライドマテリアルズとの経営統合が破談となり、競争激しい業界でひとまずは独力での生存・成長の道を探る格好となったが、東京エレクトロンの将来性を占う要素は明るい材料ばかりで、加えて研究開発への投資も堅実かつ積極的に行っている。よって、同社の株価は現在でもまだ割安感があり、さらに上昇すると予測される」(金融業界関係者)
また、半導体業界関係者はいう。
「唯一懸念材料があるとすれば中国市場だ。米国による半導体輸出規制を受けて中国は半導体の国内生産を増やしており、東京エレクトロンは中国メーカー向けの売上が増えている。直近では売上高のうち中国向けが約半分となっており、今後、米国による規制強化など不確定要因が生じれば影響を受ける可能性がある」
(文=Business Journal編集部)