ヤマト運輸の経営が迷走を深めている。親会社ヤマトホールディングス(HD)の2024年4~9月期連結決算は営業損益が150億円の赤字(前年同期は123億円の黒字)、当期純損益は111億円の赤字(同53億円の黒字)となり、4~9月期としては2019年以来の5年ぶりの赤字に転落。日本郵便との間で昨年6月に合意したばかりのヤマトのメール便・小型荷物の配達の委託について、旧「ネコポス」の配達委託を25年1月~26年3月に中断することを申し入れ、日本郵便が損害賠償を求めることを検討しているという。昨年には「クロネコDM便」「ネコポス」の約3万人に上る配達員(クロネコメイト)との業務委託契約を25年3月末までに一斉に打ち切ることを発表し、大きな反発を招いたが、そのしわ寄せで現場の業務が混乱して遅配が増えているという。専門家は「経営陣の迷走が大元にある」と指摘する。
昨年に世間を揺るがせたのが、ヤマトが長年の宿敵とされた日本郵便に、メール便と小型薄型荷物の配達を委託することで両者が合意したことだった。それに伴いヤマトは「ネコポス」を「クロネコゆうパケット」へ、「クロネコDM便」を「クロネコゆうメール」へ移行させ、「ネコポス」「クロネコDM便」の配達員との業務委託契約を打ち切ると発表。配達員は大半が個人事業主であることから、基本的には団体交渉にも応じない姿勢を見せてきた。
日本郵便への配達委託などによるコスト削減効果や取扱数量の増加、集配拠点の集約などにより、ヤマトHDは当初、25年3月期の連結営業利益が前期比25%増の500億円になるとの見通しを発表していたが、先月には営業利益を当初予想から400億円引き下げて100億円(前期比75%減)になると発表。連結純利益も従来予想を270億円下回る50億円(前期比87%減)に引き下げた。11月5日の会見で栗栖利蔵副社長が「新規のお客様については数量は確保できているが、多少安めに取っている部分もあり、収益が追いつかなかった」と説明しているように、法人向けは契約獲得のための値下げの影響で単価が低下。個人向けは取扱量が減少し、「2024年問題」といわれる残業規制に伴い長距離輸送を他社に委託したコストの増加などが響いた。
そして今月には、ヤマトが25年1月〜26年3月に小型荷物の配送サービス「クロネコゆうパケット」の配達委託を中断したいと日本郵便に申し入れていたことが判明。ヤマトは配達までの時間が延びていることを理由としている。
ヤマトが赤字に陥った原因
ヤマトが赤字に陥った原因について、物流ジャーナリストの森田富士夫氏はいう。
「宅配便は全国に構築された配達ネットワークを使って不特定多数の荷物を運送するというビジネスモデルであり、装置産業と労働集約型産業という2つの面を持っており、両者のバランスで利益の規模が決まってきます。よって、ある程度までは単価を下げても取扱数量を増やせば荷物一つあたりの固定費が下がりますが、配達員を増やす必要があるため人件費が増え、さらに一定限度を超えて単価を下げすぎると利益が削られて赤字になってしまいます。今回ヤマトが赤字になったのは、法人向けで単価を下げすぎたうえに取扱量を増やしすぎ、そのバランスが崩れたことが原因だと考えられます」
根底にはヤマトの経営層の迷走があるという。
「ここ数年のヤマトの経営をみていると、理解しにくい点が目立つようになっています。代表的なのが、日本郵便への委託に伴い3万人もの配達員の契約を一斉に切ろうとした件です。このほか、数年前からベース(拠点)内の作業の外注化を進めようとしていましたが、現在では中断している模様です。長年にわたりベース間の幹線輸送を担っていた業者の間では、撤退する動きも出ているようです。ベースのオペレーションを受託した事業者から運賃値下げ圧力があるといわれています。昨年からメール便などの配達員の削減が問題となっていますが、営業所などで仕分けを行う従業員も減っています。こうしたことが重なり配達の現場全体で人手不足が進み、遅配の増加につながっていると考えられます。
日本郵便への配達委託に関しても、すでに日本郵便では一般的な郵便物の土曜日の集荷や配達を廃止するなどして以前から荷物が届くまでの時間が長くなっており、小型荷物の配達を委託すれば配達までの時間が延びるということはあらかじめわかっていたことです」(森田氏)
配達ドライバーの残業規制や物流コストの上昇
大手配送会社の関係者はいう。
「要は配達や仕分けなど現場を担う人員を減らしすぎた結果、広い範囲で遅配が生じているということです。業界内では『ヤマトの現場が大変らしい』という情報は伝わっています。『クロネコゆうパケット』の配達委託の取りやめについても、個人向けで減ってきている取扱個数を維持したいという意図だと思われますが、では日本郵便の代わりに誰が配達するのか、クロネコメイトのクビを一気に切っておいて、すぐに人を確保できるのかというのは疑問です。
もっとも、ヤマトの苦労も十分に理解できます。数年前からECの普及やコロナの巣ごもり需要の拡大で物流が逼迫し、ヤマトはその解消のためにさまざまな手を打ってきたものの、最近は一転して個人向けは個数が減少傾向となり、配達ドライバーの残業規制や人件費をはじめとする物流コストの上昇も重なり、経営環境的には非常に厳しくなっているのは事実です。この先1~2年は苦しい経営が続くなかで、どのように将来的に安定して利益を出して遅配も起こさない仕組みを構築していくのかが問われています」
(文=Business Journal編集部、協力=森田富士夫/物流ジャーナリスト)