ヤマト運輸が室温40度を超える倉庫内で従業員を働かせ、熱中症の疑いで倒れる人が相次いでいるにもかかわらず十分な対策を施さず、従業員から環境改善を訴える団体交渉の申し入れを受けた翌日に倉庫の気温計を取り外した疑いが浮上している。同社は倉庫内の室温の記録・記録なども行っていなかったとのことだが、従業員はどのような労働環境に置かれていたのか。また、なぜ同社は適切な対応を取らないのか。関係者の見解を交えて追ってみたい。
ヤマト運輸を傘下に持つヤマトホールディングス(HD)は売上高1兆7586億円、営業利益401億円、純利益376億円を誇る宅配便業界トップ(2024年3月期決算)。ヤマト運輸の年間の小口貨物取扱数は29億個、従業員数は16万人を超える巨大企業だ。
そんなヤマトの劣悪な労働環境を従業員が告発し、注目されている。兵庫県尼崎市内の同社の倉庫に勤務する男性従業員が今月19日に開いた会見によれば、倉庫内ではエンジンをかけたままの配達車が待機していることも多いため日常的に室温は35度を超えており、40度を超えることも多いものの、業務用扇風機とスポットクーラーが複数台あるのみで、空調服などは配布されていない。倉庫内の温度と熱中症指数は記録・管理されておらず、19日付「東京新聞」記事によれば、ドライバーが熱中症の疑いで倒れた際には適切な応急処置が行われず、同社は「本人の不摂生」が原因だと説明していたという。
会見を行った男性も8月に熱中症の疑いがあると診断され、頭痛が続いているために「薬で散らしながら」勤務を続けている。男性は会見当日にストライキを行い、ヤマト本社前で抗議行動を実施。会社側に以下を要求している。
・全社における熱中症労災の実態の把握
・全労働者に対する猛暑対策の実施
・全職場における気温の把握
同じく大手宅配事業者の佐川急便は、倉庫従業員と配送ドライバーに空調服を支給しているという。
物流倉庫で働いた経験のある男性はいう。
「この男性も勤務中はヘルメットを着用していたとのことですが、倉庫ではケガ防止のためにヘルメットや厚手の長袖の作業服を着用することが規則で決まっていることも多く、室温が40度だと死亡リスクがあります。すでに熱中症で倒れる従業員も出ているとのことですが、死亡者が出てからでは遅いので、会社として早急に対策を打ったほうがよいです」
“労働者に優しくない”行為が目立つ理由
ヤマトといえば今年1月、メール便の配達などを日本郵便に委託することに伴い、それまで委託してきた「クロネコメイト」と呼ばれる個人事業主およそ2万5000人やパート社員約4000人との契約を打ち切ったことが記憶に新しい。倉庫の労働環境の件も含めて、なぜ同社は“労働者に優しくない”行為が目立つのか。
「大きな理由としては、ヤマトの強い危機感があげられます。現在、宅配ニーズは旺盛とはいえ、同社の昨年度の取扱数は減少しており、同社はEC事業者による自社配送網の構築を脅威と捉えているなど、長期的には需要が右肩下がりになっていくと認識しているのかもしれません。また、同社の宅配・倉庫の現場では数万人規模の従業員が働いており、一人ひとりの要望や苦情に細かく応じていると収拾がつかなくなる恐れもあり、小さな一つの要求に応じることが、多くの現場従業員の労働環境を大幅に改善すべきという動きにつながって多大なコスト負担が生じてしまうことを懸念しているのかもしれません。
そもそも物流の現場というのは重労働かつ危険なので、何かとワーカーたちが不満を抱きやすい。彼らが大きな声で改善を求めるムーブメントにつながるのを避けるため、現場からのクレームや改善要求を押さえつけようという意識が働きがちな面はあるかもしれません」(物流業界関係者)
(文=Business Journal編集部)