その余波を受けてか、車海老や伊勢海老の取引価格が上がり、国産伊勢海老の価格が例年の2倍近くまで上昇した。その背景に見えるのは、おせちに伊勢海老と表記しながらロブスターを使うつもりだった確信犯的な業者が、あわてて伊勢海老を買い集めているということだ。
通年ならば、外国産ロブスターの価格は伊勢海老の2分の1程度。しかし、伊勢海老高騰の折から、その価格差は3倍以上も開いている。おせち食品加工業者からは、「これでは儲けが出ない」と叫びが聞こえてきている。
しかし、おせちのネット販売などの写真をチェックしてみると、一部の業者はロブスターを使いながらも、いまだに堂々と料理名に「伊勢海老」を表示しているケースも見られる。「料理名として伊勢海老のテリーヌなどと表記するのは、いまのところ問題がないということで、変更していません」と、このおせち販売業者は説明するが、「いまのところ問題がない」とはどういうことなのだろうか。
●あいまいな判断基準
具体的に説明していこう。スーパーなどで売られている食品表示に関してはJAS法で細かく決められているので、当然ロブスターを伊勢海老と表現できないし、原産地(国)なども表記しなくてはならない。
だが、外食やネットでの加工食品の販売のメニュー表示には「景品表示法」(優良誤認)のルールが適用されている。消費者を嘘や大げさな表示から守る法律だが、「一般消費者に対し、実際のものより著しく優良であると示していないか」かどうかが問われるだけだ。さらに、何をもって「著しい」とするかの定義がなく、個別に検討して判断をしていくことしかできない。白黒つけるような、はっきりとした判断基準があるわけではないのだ。
そのため、ロブスターを伊勢海老とメニュー表示したことが、景品表示法にひっかかってしまうのか、消費者庁でも今のところ判断をつけていない。つまり、このようなモノサシとなる法的定義がはっきりとするまでは、外食産業やネット上ではメニュー偽装は事実上野放しのままでもあるのだ。
●外食産業に“甘い”ガイドライン
消費者庁は12月19日、阪急阪神ホテルズと、高級ホテル「ザ・リッツ・カールトン大阪」を経営する阪神ホテルシステムズ、旅館「奈良万葉若草の宿三笠」の運営を子会社の近鉄旅館システムズに委託する近畿日本鉄道に対して景品表示法違反で再発防止などを求める措置命令を出し、罰則付きの行政処分を行うとした。
罰則付きの行政処分が外食産業の虚偽表示に対して下されるのは、異例の厳しさだ。今までは、虚偽があったとしても、「すいません、もうしません」と、すぐに改めてしまえば、罰金もなくそれで終わりだったからだ。
今回の処分は、見せしめ的な処置で、とくにマスコミで騒がれたホテル・旅館だけが対象になっている。だが、このホテルよりも悪質な偽装をしていたホテルに処分が行われないことから、優良誤認の判断基準の曖昧さを感じずにはいられない。今後、消費者庁では個別に対応できるようにガイドライン作りを急ぎ、「食品表示Gメン」を活用するとしている。食品表示Gメンとは、2008年から農林水産省所管で全国に1400人ほど置かれている検査官で、主にスーパーや小売店を中心に食品表示などのチェックをしている。