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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

日本製テレビが韓国サムスンらに駆逐された理由…高い技術力とプライドがアダに

文=大﨑孝徳/デ・ラ・サール大学Professorial lecturer
日本製テレビが韓国サムスンらに駆逐された理由…高い技術力とプライドがアダにの画像1「Getty Images」より

 10年ほど前になるが、筆者は薄型テレビの国際市場で日本メーカーの影響力が急速に低下している理由を解明すべく、中国でテレビの市場調査を実施していた。

今でも鮮明に記憶しているが、中国で家電量販店を訪れテレビ売り場に行くと、そこは異様な光景であった。悪い意味で日本メーカーのテレビが目立っていたのだ。

 日本ではあまり見かけないが、薄型テレビの国際市場ではサムスンが強い影響力を保持しており、デザインにおいても先導する立場である。サムスンはいち早く、液晶の周りを黒い樹脂ではなくシルバーメタルで囲むデザインを採用し、現地の消費者から高い評価を得ていた。筆者が訪問した時期には、ちょうど中国メーカーをはじめ、ほかの海外メーカーもサムスンのシルバーメタルのデザインを模倣していたなか、日本メーカーだけが従来の黒い樹脂で囲むデザインを固持していたのである。

 もちろん、デザインは個人の嗜好に大きく左右されるわけだが、その場にいた販売員も「日本メーカーの液晶画面自体は素晴らしく、自分は使用しているが、あのデザインでは消費者には受け入れられない。なぜ変えないのだろう」と語っており、“旧型”という印象を強く受けた。

 当時、この理由に関して、日本メーカーのつまらないプライドが邪魔して、デザインを変えないのではと推測していた。

技術サイドの主張

 先日、偶然、日本の大手家電メーカーで国際マーケティングを担当していた人と話す機会があり、この話題を振ってみたところ、大変興味深い話が聞けた。もちろん、日本メーカーのプライドという要因もゼロとは言わないが、テレビのフレームは黒、しかも光沢のない黒がもっとも画面自体を美しく見せるらしい。こうしたことを根拠に、技術サイドが断固としてシルバーメタルのデザインに反発し、採用しなかったということだった。

高い技術力とマーケティングのジレンマ

 こうした事例は、マーケティングの視点からは大変興味深い。確かに、プロである技術者の意見は“テレビの画面を美しく見る”という視点からは正しいのであろう。しかし、「最先端のデザインのテレビが欲しい」という消費者のニーズとかけ離れていることは明確である。画面にかかわる技術に自信のある日本メーカーにとっては譲りがたい問題となるが、特別の技術を有しない多くの海外メーカーは、なんら抵抗なく、簡単に消費者ニーズに追随できる。

 つまり、技術力という強みが、顧客視点が重要視されるマーケティングにおいては不利に働いてしまうというジレンマが生じているということである。

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

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