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林晋哉「目からウロコの歯の話」

歯医者さんの「麻酔」の怖い話と注意点…2歳女児死亡、なぜ歯科医は救急救命を怠ったのか?

文=林晋哉/歯科医師
歯医者さんの「麻酔」の怖い話と注意点…2歳女児死亡、なぜ歯科医は救急救命を怠ったのか?の画像1「Getty Images」より

 福岡県警は、2017年に福岡市の歯科医院でむし歯治療中に起きた2歳女児死亡事故で、元院長の男性を業務上過失致死の疑いで書類送検しました。

 亡くなった女児の死因は、司法解剖の結果、治療で使用した局所麻酔薬リドカインの急性中毒による低酸素脳症とみられています。

 事故が起きた当初は、局所麻酔薬の投与量の誤りも疑われましたが、警察のその後の調べで、投与量など麻酔薬の使用については過失を認めていないものの、急変後の対応が不適切だったと判断し、業務上過失致死の疑いで立件する方針です。

 むし歯や歯周病治療、親知らずの抜歯など歯科治療を受けたことのある人ならば、麻酔をされた経験があると思います。歯科治療での麻酔薬の安全性は確立されているので、麻酔使用はごく一般的となっており、麻酔がなければ歯科治療は成り立ちません。したがって、麻酔薬で死に至ることは極めてまれです。

 しかし、安全だからといって安易な麻酔使用は禁物で、麻酔使用の際は事前に以下の項目のチェックが必要です。

・その日の体調(血圧、体温、特に血圧測定は必須)
・持病や病歴
・服薬の有無と種類
・過去に麻酔で気分が悪くなったことの有無
・歯科治療に恐怖心があるか(緊張度が高いと過敏に反応することがある)
・患者が小児であるか(使用量、麻酔薬に対する反応など、大人と同様に考えてはいけない)

 それでも、偶発的に気分が悪くなったり、血圧低下など一過性の脳貧血症状が現れることはありますが、しばらく安静にすることで回復します。

 このような場合に大切なのは、歯科医による断続的な経過観察です。もし症状が進行した場合は、ただちに適切な救急措置をしなければなりません。

 今回のケースは、下記報道から、必要な救急措置が行われなかったと推察され、それが業務上過失致死につながったと思われます。

【3月7日付西日本新聞】
「両親は容体の急変を受けて元院長に『手足が冷たく呼吸がおかしい。目の焦点も合っていない』と訴えたが、元院長は『泣き疲れただけでよくあること』などと説明、医院内で休むよう指示した」

【3月8日付西日本新聞】
「元院長は治療後、両親から叶愛ちゃんの異変を訴えられており、治療内容から麻酔による中毒症状を予測し、酸素マスクを装着するなどの適切な措置をしていれば事故は防げた、と判断した」

林晋哉/歯科医師

林晋哉/歯科医師

1962年東京生まれ、88年日本大学歯学部卒業、勤務医を経て94年林歯科を開業(歯科医療研究センターを併設)、2014年千代田区平河町に診療所を移転。「自分が受けたい歯科治療」を追求し実践しています。著書は『いい歯医者 悪い歯医者』(講談社+α文庫)、『子どもの歯並びと噛み合わせはこうして育てる』(祥伝社)、『歯医者の言いなりになるな! 正しい歯科治療とインプラントの危険性』(新書判) 、『歯科医は今日も、やりたい放題』(三五館)、『入れ歯になった歯医者が語る「体験的入れ歯論」: -あなたもいつか歯を失う』(パブフル)など多数。

林歯科・歯科医療研究センター

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