経済大国化するベトナム、日本の最重要パートナーに…“日越同盟”が日本経済を大きく左右
去る6月に大阪で開催されたG20首脳会議では、米中貿易対立の行方に世界の注目が集まった。しかし、同会議に参加した37の国や国際機関のトップのなかで、フットワークの軽さではベトナムのフック首相の右に出る人物はいなかった。
何しろ、2日間の首脳会議の合間を縫って、大阪とハノイを往復しているのだから。まさに片足を大阪に置きながら、もう片足をハノイに置くという離れ業を見せてくれた。G20の会場で各国首脳との会談や日本の経済団体との懇談をこなしていたと思ったら、ハノイではEUベトナム自由貿易協定の調印式に臨むという離れ業だ。大阪滞在中も和歌山に足を運び、東京でも安倍晋三首相との会談のみならず、1500人の日本人ビジネスパーソンを前に講演するなど、実に精力的な動きを見せていた。
このところベトナムの経済成長は著しく、7.8%の成長率は他を圧倒している。昨年は海外からの投資額が3500億ドルを超えた。すでに3000社を超えるスタートアップ企業が躍進を続け、上場企業による資金調達額でもシンガポールを追い抜いた。農業分野でも医療、観光、不動産開発といった分野でも海外からの関心や投資が高まる一方だ。いうまでもなく、日本からの企業進出数もうなぎ上りである。
人口1億弱のベトナムでは平均年齢が28歳と若く、インターネットショッピングも急拡大中で、昨年は330億ドルのオンライン決済を記録した。再生可能エネルギーの導入も進んでおり、総発電量に占めるクリーンエネルギーの割合は毎年10%増加している。
日本が進める高度人材の受け入れ事業においてもベトナムは筆頭株である。いわゆる「技能実習生」や留学生の数でもベトナムは断トツのナンバーワン。日本で学ぶ外国人留学生のうち、4人に1人はベトナム人だ。日本企業の7割がベトナムへの進出や投資を検討しているとの調査もあり、そうした日本企業で働きたい希望を持つベトナム人が多いのもうなずけよう。
そうした背景もあり、ベトナムで日本語を学ぶ学生数は急増中だ。日本語を学ぶ国民の比率が世界でもっとも高い。ベトナムから日本を訪れる観光客も昨年31万人に達し、5年間で4倍に増えている。日本の商品やサービスに惹かれるベトナム人は増える一方である。
実は、イオンモールはベトナムで4カ所の大型店舗を経営しているが、日本の商品を売るだけではなく、ベトナムの商品を毎年3億ドル近く日本に輸出している。また、高島屋も上海の店を閉め、ベトナムでの事業を拡大することを決めた。要は、米中貿易摩擦が激化すればするほど、「チャイナ・プラス・ワン」の代表であるベトナムは「漁夫の利」を得ることになるだろう。
共産主義の国であるが、このところ国営企業の民営化も盛んで、インフラ分野から製造業に至るまでベンチャー精神がみなぎっている。そうした動きを象徴するかのように、2019年にはベトナム初の国産自動車メーカー「ビン・ファスト」がデビューした。また、バイクや自動車の相乗りサービスも盛んである。「ファスト・ゴー」と呼ばれるアプリ提供会社は発足間もないが、アメリカや韓国の投資家から資金を集め、ベトナム国内に限らず東南アジア全域、そしてアメリカやブラジルにまでサービス範囲を広げる計画を進めている。その促進役を果たしているのも地元企業の「ビナキャピタル」という投資会社にほかならない。
彼らの発想は大胆で前向きだ。「アメリカ発のウーバーを追い抜け! アジアで先行するシンガポールに負けるな! 競争相手に挑戦することで、われわれも成長する。われわれの強みは資金力だけではなく、戦略にある!」。具体的には、ファスト・ゴーでは運転者からコミッションを取らない。その代わり、1日の売上が一定金額を上回った場合に、少額のサービス利用代金を受け取る仕組みとなっている。ラッシュアワーにも追加料金を請求せず、利用者のチップを期待するというわけだ。すでに東南アジアでは破竹の勢いを見せている。アジアの若い消費者を取り込む戦略は着実に成果を上げているようだ。
とはいえ、地域によっては依然として発展途上国の厳しい生活を余儀なくされている。そのため、このギャップを早急に埋めなければ、ベトナムの未来は地雷原を進むことになりかねない。ベトナムは今や中国を抜き、日本のODA(政府開発援助)の最大の受け入れ国となり、アジアではもっとも親日度の高い国である。首都ハノイの空港にも、空港と市内を結ぶ陸橋「日越友好橋」にも日本からの支援を感謝するプレートが随所に掲げられている。今後は日本による開発援助をいかに地方に行き渡らせるかが、ベトナムの未来を左右するといっても過言ではない。その意味では、ベトナムの未来は日本とのパートナーシップを通じて一層輝くものになりそうだ。