キュービーネットホールディングスが手掛けるヘアカット専門店「QBハウス」が、大幅値上げをしたにもかかわらず、業績は絶好調だ。2月から国内全店でカット料金を税込み1080円から1200円へと約1割も引き上げたため、負担増による顧客離れで売り上げの減少が懸念されていた。だが、蓋を開けてみれば既存店売上高は大幅上昇が続いており、懸念は杞憂に終わった。
値上げ前の2018年7月~19年1月累計の既存店売上高は、前年同期比2.7%増にとどまっていた。ところが、値上げした今年2月以降、大幅増が続くようになった。2月は9.6%増と大きく伸び、以降、8月まで毎月7~10%程度の増収率が続いている。
同社の19年6月期決算(国際会計基準)も好調だ。連結売上高は前期比8.2%増の208億円、営業利益は20.0%増の19億円だった。既存店売上高が好調だったほか、国内外で新規出店を進めたことが寄与した。純利益は22.2%増の12億円だった。
なぜ、QBハウスは値上げしたにもかかわらず、売り上げが大きく伸びたのか。QBハウスのように低価格を売りとする店が値上げをすると、深刻な客離れが起きて売り上げが大きく減ることが少なくない。
焼き鳥チェーンの鳥貴族が最たる例だろう。17年10月に税抜き280円均一から298円均一へとに約6%値上げしたところ、深刻な客離れが起きた。客数でマイナスの月が続出し、既存店売上高は18 年1月から19年8月まで20カ月連続でマイナスが続いている。既存店の苦戦で不採算店の閉鎖を余儀なくされ、それに伴い減損損失を計上、19年7月期決算は14年の上場以来初となる最終赤字に転落した。
天丼チェーン「てんや」は18年1月に、売り上げの4割弱を占めるとされる「天丼並盛」を税込み500 円から540円へ8%引き上げるなど、6種類のメニューを値上げしたところ、深刻な客離れが起きた。客数は値上げした18年1月から19年8月までの全20カ月がマイナスとなった。既存店売上高は、客単価の上昇でカバーできない月が続出し、20カ月中18カ月がマイナスだ。
QBハウスのライバルがいない理由
値上げが売り上げにどの程度影響を与えるかは、差別化の度合いで異なってくる。差別化とは、ほかで代替できない力を持つことだが、差別化の度合いが高ければ値上げしても売り上げ減が起こりにくく、低ければ売り上げ減が起きやすい。
飲食店業の場合、「食べられればいい」と考える消費者が少なくないので、代替できない力は弱くなりがちで、差別化の度合いは低いことが多い。もちろん「この店で食べたい」と思わせられる差別化の度合いが高い飲食店もあることはあるが、その割合は、個人店は行列店などでは小さくはないものの、チェーン店は小さいだろう。そういったチェーン店が値上げをした場合、「値段が高くなったから、ほかの店に行こう」と思われやすいのがもっぱらだ。
一方、QBハウスは19年6月末時点で、国内で554店をも展開するチェーン店にもかかわらず、差別化の度合いが高い。それはなぜか。
理美容室は数多く存在するが、1000円台前半でカットできるところは、かなり少ない。また、QBハウスは駅周辺や商業施設内など好立地の店舗が多く、そういった立地の低価格店となると、さらに少なくなる。さらに、18年3月に東証1部に上場するなど高い知名度を獲得しており、QBハウスと同等かそれ以上の知名度を持った低価格の理美容室チェーンとなると皆無だ。このように、QBハウスの代替となる理美容室は少ないので、QBハウスの差別化の度合いは高くなっている。