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大戸屋、底なしの客離れ…“ただのコスパ悪い店”化、原点を見失いファンすら失望

取材・文=A4studio
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大戸屋の店舗(「wikipedia」より/Asanagi)

 不調はいつまで続くのか。「大戸屋ごはん処」(以下、大戸屋)を運営する大戸屋ホールディングスの発表によると、同店の既存店客数は下降の一途をたどり、15カ月連続で減少中(前年対比)。いまだ復調の糸口すらつかめていない。

 今年2月にはバイトテロも話題になったが、大戸屋の不調はその時期に始まったわけではなく、根本的な原因ではないだろう。

ランチやポイントカード廃止で従来ファンをないがしろに

 ではいったい何が主要因なのか。フードアナリスト・重盛高雄氏はこう話す。

「目先の要因として、まず商品価格の値上げが考えられますが、根本的な問題はそこではないでしょう。一番の問題は、値上げによって大戸屋サイドと顧客サイドで店舗のポジショニング(立ち位置)の認識にズレが生じている点なのです。

 大戸屋が提供する商品に対して、顧客は内容的に低価格帯だと考えているのに、店舗側は中価格帯だという認識で、実際に中価格帯で設定している。大戸屋的には、味や素材にこだわったいいものを出しているという自負があるゆえの価格設定なんでしょうが、顧客の中でイメージと価格に乖離があれば、それはただ“コスパが悪い”だけのお店。顧客が大戸屋に何を求めているのかという需要を大戸屋が理解できておらず、これでは客足が遠のくばかりです」(重盛氏)

 事実、かつての大戸屋は600円台など低価格帯の料金でボリューミーな食事ができたが、現在は定食だと1000円前後のメニューが主力となっている。ご時世的に価格を上げざるを得ない事情はあるのだろうが、それならばそれ相応の価値を付与してほしいところ。だが、大戸屋はそれも見誤ったと重盛氏は続ける。

「たとえば『四元豚のロースかつ定食』は小鉢をつけているとはいえ、とんかつがだいぶ薄くなった印象です。これに950円(税込)を支払うなら、街のとんかつ専門店で750円のものを注文したほうがよほど満足度は高い。店側は上級な定食を安価で提供していると考えていても、この内容では価格に妥当性がないと顧客は判断してしまいます」(重盛氏)

 そもそも値上げの背景には材料費の高騰のほかに、さまざまな決済方法への対応や、外国人を含めた多種多様な顧客を受け入れるため、各座席へのオーダー端末導入といったインフラ整備によるコスト増もある。だが、これが大戸屋のメイン顧客層にとってプラスになっているのか疑問だ。

「さらに、今年4月からはボリューミーで高い人気を誇っていた『大戸屋ランチ』がなくなり、その代わりに値上げ&改悪されたといっていい『大戸屋おうちごはん定食』が登場しました。500円につき1ポイントを押してもらえ、15ポイントに達すると1000円以下の商品と交換できる『大戸屋ポイントカード』も廃止され、数%しか還元されない楽天ポイントカードに統一されたのも、もともとの大戸屋ファンを失望させるには十分でした」(重盛氏)

頼みの新業態店はアピール不足&コンセプトが中途半端

 大戸屋は一昨年、創業60周年を迎えるなど大手外食チェーンのなかではそれなりに老舗だが、歴史が長いことは飲食業界ではなんのアドバンテージにもならない。むしろ昔からのファンを裏切ることになれば、客離れに拍車をかけてしまうことは今回の大戸屋のケースからもわかる。

「2016年に起きた“お家騒動”と値上げを機に、コンセプトチェンジということでグランドメニューを何度か改定しています。その一環で女性客をこれまで以上に意識して、器などにもこだわり始めましたが、そのあたりから方向性を踏み間違えた印象です。創業精神をスローガンにして店内の壁に飾られていた、『かあさん額』が去年からどんどんなくなっていますし、かつての客層をないがしろにしているように映ります。かといって、女性客が大きく増えているかといえば、そうでもない」(重盛氏)

 とはいえ、大戸屋サイドも打開策を打ち出していないわけではない。そのひとつとして「食べ処三かみ」や「かこみ食卓」といった新業態店を展開し、今年4月には女性やひとり客をターゲットとした「大戸家」を東京・町田にオープンさせた。これらの取り組みは実を結ぶか。

「そういった新業態を展開している事実すらあまり知られていないと思いますし、企業の取り組みとして周囲にアピールするなら、もっと大々的にやらないと意味がないと思います。それに『食べ処三かみ』や『かこみ食卓』は、大戸屋とそこまで差別化できているようには思えませんし、『大戸家』もシーティング(座席配置)がカウンター形式では女性には刺さりづらい。取り組みとしては中途半端と言わざるを得ないでしょう」(重盛氏)

 では、どうすれば大戸屋は変われるのだろうか。

「どういう業態がウケるのかを、実験店舗で試していくこと自体は間違っていないと思います。ただし、今はマーケットが二極化しているので、かつての大戸屋やライバルである『やよい軒』がやっているように、低価格帯に舵を切るなら、そこそこの料金でそこそこのものをしっかりしたボリュームで提供する必要がある。

 逆に、高価格帯に舵を切って女性客を狙うのであれば、オーガニック食材を使用したり、サラダバーをつけたりと“求められる付加価値”を考える必要がある。そうすれば、たとえ高くてもファンはつきますし、特に女性客はやってきます。とても当たり前の話ですが、重要なのは提示した価格に顧客が納得して来店してくれるかどうかということです。今の大戸屋は、その原点を見失っている気がします」(重盛氏)

 値上げなどさまざまな状況に応じて変化を求められるのが飲食業界の常。大戸屋はそれに失敗してしまっているように見えるが、今後、これまでの失策を糧に再びニーズに合ったコンセプトを提案できるのだろうか。大戸屋の本気が試される。

(取材・文=A4studio)

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エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
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