9月12日、ヤフーはインターネット衣料品通販大手のZOZOを株式公開買い付け(TOB)で子会社化し、傘下に収めると発表した。発行済み株式の50.1%を上限に買い付ける方針で、買収額は最大で約4000億円になる見通し。
この発表の日、ZOZO創業者の前澤友作社長が退任した。前澤氏はZOZO株を36.76%保有する筆頭株主だが、TOBに応じて大半の株式を売却する。
ZOZOの中核事業であるネット通販サイト「ゾゾタウン」は、一躍人気サイトへと成長した。早くから多くの人気ブランドを取りそろえたほか、商品検索を容易にしたり、返品を可能にして、試着できないというネット通販のデメリットの解消を図ったことなどが功を奏した。
ゾゾタウンの成長とともにZOZOの業績は飛躍的に伸びた。2019年3月期の商品取扱高は3231億円(前期比19%増)にも上る。売上高は20%増の1184億円だ。
もっとも、最近は成長に陰りが見え始めている。プライベートブランド(PB)事業の失敗などで、19年3月期の連結純利益は前期比21%減の159億円と、07年の上場以来初の減益となった。20年3月期第1四半期には、17四半期ぶりに年間購入者数が減少に転じている。
アパレルブランドが出品を取りやめる「ゾゾ離れ」も起きた。ゾゾタウンの有料会員向けの割引サービス「ZOZOARIGATOメンバーシップ」(現在は終了)を始めたところ、ブランド価値の毀損を嫌って出品を取りやめるブランドが続出した。これにより、増加が続いていた出店ショップ数は18年12月末から19年3月末にかけて10店純減し、1245店となった。その後、出店ショップ数は増加に転じたが、確実にZOZOのイメージはダウンした。
ヤフー側のメリット
このような状況のなか、なぜZOZOはヤフーの傘下に入ることになったのか。
ヤフーのメリットは明確で、ゾゾタウンを傘下に収めることでヤフーのインターネット通販事業を強化する狙いがある。
ヤフーはネット通販「ヤフーショッピング」などを運営するが、今秋には新しい通販サイト「PayPayモール」を始めるなどネット通販事業を強化している。今後は、ゾゾタウンをPayPayモールに出店させる方針で、相互送客を実現したい考えだ。ヤフーは30~40代・男性の利用者が多いが、一方のゾゾタウンは20~30代の若年層・女性が多く、それぞれ顧客層が異なる。相互送客により、それぞれ手薄だった顧客層を開拓できるようになるのは大きい。
ヤフーはZOZOを傘下に収め、電子商取引(EC)で先行する米アマゾン・ドット・コムや楽天に対抗したい考えだ。ヤフーのEC事業の取扱高(非物販含む)は、18年度が2兆3442億円、ZOZOは 3231億円だった。両社の取扱高を合算すると2兆6000億円となり、3兆4000億円の楽天に大きく近づく。
こうしたメリットが見込めるため、ヤフーは4000億円もの巨費を投じてZOZOを買収するのだ。必要な資金は、自己資金と金融機関からの借り入れで賄う。ヤフーは6月末時点で現預金が5651億円あり、財務基盤は盤石だ。業績は、19年3月期こそスマホ決済サービス「PayPay」への積極的な投資の影響もあって増収ながらも大幅減益となったが、それ以前は毎年1000億円以上の純利益を叩き出すなど好調に推移している。ZOZOを傘下に収め、さらなる高みを目指す。
ヤフーがZOZOを傘下に収めるのは以上が主な理由だが、ZOZO側から見た場合はどうなのか。
ZOZOが身売りしたワケ
ZOZOとしても、ヤフーからの送客が見込めることは大きい。ただ、成長に鈍化の兆しが見え始めたとはいえ、他社の傘下に入ってまで誘客を実現しなければならないかといえば、そうではないようにも思える。確かに、20年3月期第1四半期に年間購入者数が減少に転じたが、一時的なことかもしれないし、今後独力で伸ばせないとまでは必ずしも言い切れない。
前澤氏にしても、23年に予定される月旅行への準備と新事業の立ち上げを理由にZOZOの経営から身を引き、株の大半を手放すというが、なぜこのタイミングなのか解せないものがある。
なぜZOZOはヤフーの傘下に入る道を選び、前澤氏はその決断を下したのか。理由のひとつに、前澤氏の「金欠」が考えられる。
前澤氏はバスキアの絵画を123億円で落札したり、豪華な食事を楽しむ様子をインスタグラムで公開するなど、巨額のお金を日常的に使うことで知られているが、そういった費用を借金で賄っているとの見方があるのだ。
8月下旬に提出された大量保有報告書によると、前澤氏はZOZO株の約6割にあたる6500万株を国内外の金融機関に担保提供している。それにより借り入れをし、絵画の購入などに充てたとみられている。
一方で、ZOZO株は少し前までは下落傾向が続いていた。それにより担保不足になり、追加の担保提供や担保処分を迫られた可能性がある。
こうしたことから、前澤氏は所有するZOZO株の大半をヤフーに売却する決断を下したと考えられる。前澤氏はZOZO株を約1億1200万株(36.76%)保有しているが、30.37%分にあたる約9200万株を売却する方針だ。買い付け価格は1株2620円となるため、売却総額は約2400億円 にも上る。これを借り入れの返済に充てる可能性がある。もっとも、株価が暴落する前に売り抜けただけとも考えられる。
ZOZOの株式をめぐっては、過去に解せない動きもあった。昨年5月下旬に提出された大量保有報告書によると、前澤氏は600万株を市場外でZOZOに売却している。売却額は約230億円となるが、この額が前澤氏のポケットに入った一方、ZOZOからは同額が消えることとなった。これを補うためか、同社は18年4~6月期に240億円の短期借入金を計上している。
この株式売買の頃よりも現在の株価は低く、ZOZOは高値つかみの格好となっている。さらに短期借入金は220億円(19年6月末時点)が残ったままだ。残った社員にしてみれば後味の悪い置き土産といえるのかもしれない。また、前澤氏がこうした巨額の売却益を手にする一方で、ZOZOの経営を放棄するのは、社員を使い捨てたとの批判もある。もっとも、ヤフー傘下入りで今後の展望が開け、株価は上がっているので悪い話ではないのかもしれない。どう受けとるかは、人それぞれだろう。
前澤氏は、良くも悪くもたくさんの話題を振りまき、ZOZOにたくさんの“遺産”を残してきた。その前澤氏が、経営から身を引く。それにより業績が良くなるのか悪くなるのか、新生ZOZOの真価が問われる。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)