紳士服大手の青山商事は、国内で展開しているカジュアル衣料品店「アメリカン・イーグル・アウトフィッターズ」の事業を終了する。これに伴い、全33店舗を12月末までに閉鎖し、インターネット通販も終了する。
青山商事は2010年に米アメリカンイーグルアウトフィッターズ(AEO)と提携。12年にフランチャイズチェーン(FC)形式で、1号店となる表参道店を東京都渋谷区にオープンした。以降、出店を進めて店舗網を拡大してきたが、販売が振るわず、全店舗の閉鎖を決めた。青山商事はAEO社と22年2月までFC契約を交わしているが、契約期限を待たずに終了する。
青山商事はスーツ販売を中核事業としているが、仕事着のカジュアル化を背景にスーツ販売は厳しい状況が続いている。そのため、収益源の多様化を狙って非スーツ分野の商材の販売に力を入れてきた。アメリカン・イーグルのほか、100円ショップ「ダイソー&アオヤマ 100YEN PLAZA」や中古品店「セカンドストリート」、ジーンズ販売店「リーバイスストア」、靴修理店「ミスターミニット」など非スーツ分野のブランドを展開し、多様化を図っている。
アメリカン・イーグルは、青山商事のカジュアル事業の中核を担っているが、同事業の業績は思わしくない。19年3月期は売上高が前期比10.1%減の136億円と大きく落ち込んだ。営業損益は13億9000万円の赤字(前期は8億4000万円の赤字)を計上している。
カジュアル事業の売上高は、アメリカン・イーグルの店舗網拡大と共に伸びてきた。16年3月期には、同ブランドの店舗を10店出店し28店にまで拡大。その結果、売上高は前期比36.7%増の173億円に拡大した。しかし、17年3月期は同ブランドの店舗を6店出店し34店まで拡大するも客足が鈍り、売上高は前期比3.6%減の減収に転じた。そして、以降は減収が続いている。減収は19年3月期まで3期連続となった。
カジュアル事業は、利益も深刻な状況にある。営業損益は長らく赤字が続いている。少なくとも14年3月期から19年3月期まで6期連続の営業赤字が確認できる。
アメカジブーム再燃に乗れなかったアメリカン・イーグル
アメリカン・イーグルの苦戦の背景には、大手カジュアル衣料品店との競争激化がある。なかでも、ファーストリテイリング傘下の「ユニクロ」の影響が大きいだろう。ユニクロは全国に800店超を展開し、圧倒的な力を誇る。ベーシックなカジュアル衣料品を低価格で販売し、成長をはたしてきた。店舗数は、近年は緩やかながらも減少傾向にあり、飽和に達した感があるが、一方で店舗の大型化を進めるなどして競争力を高めている。国内既存店売上高は堅調に推移しており、19年8月期は前期比1.0%増とプラスだった。前年超えは7年連続となる。
ファストリは、ユニクロの姉妹ブランドでより低価格のカジュアル衣料品店「GU(ジーユー)」も展開している。GUは現在、全国に400店超を展開。店舗数は右肩上がりで増えており、現在も増加傾向にある。シンプルなデザインが多いユニクロと異なり、最新のトレンドを盛り込んだファッション性の高い商品を多くそろえつつ、奇抜すぎることもないため、多くの消費者の支持を獲得することに成功した。
アメリカン・イーグルは、こうした大手のカジュアル衣料品店に押されていた。一方で「アメカジ」市場が下火になっていることが、より事態を深刻にさせていた。アメカジはアメリカンカジュアルの略で、アメリカ風の衣料品のことをいう。元々は1980年代後半に東京・渋谷に集まる若者のアメリカ製ファッションを手本にした「渋カジ(渋谷カジュアル)」が始まりだ。渋カジはその後全国に広がり、かつてのアメリカ製ファッションも含めてアメカジと呼ばれるようになった。
アメカジは80年代後半から90年代前半にかけてブームとなったが、徐々に下火となっていった。とはいえ、アメカジは完全に消えたわけではない。形を変えて多様なスタイルを生み出したが、本流となるアメカジは細々とではあるが、今も残っている。そうしたなか、16~17年に再びアメカジに関心が集まった。メンズセレクトショップが90年代をテーマにしたストリート系のスタイルを提案し、アメカジブームが再燃したのだ。だが、それも今や下火となっているし、再燃はしたが、全体の潮流を変えるほどのムーブメントには至っていない。
それでも、アメカジブームの再燃はアメリカン・イーグルにとっては追い風だった。だが、こうした風に乗りきれなかった。17年の秋冬商品で大幅な値下げを実施するなど、てこ入れを図ったが、抜本的な状況改善には至らなかった。18年3月期の青山商事のファッション事業売上高は、前期比9.2%減と大きく落ち込んだ。営業損益は8億4000万円の赤字(前年同期は15億5600万円の赤字)だった。同社は苦戦の理由として「アメカジ市場の低迷」を挙げているが、ブームに乗れなかったこともあり業績は厳しい状況が続いた。
カジュアル衣料品市場全体に漂う厳しさ
アメカジ市場の低迷がアメリカン・イーグルの成長を阻んだが、同じ理由で苦戦を強いられた衣料品ブランドは少なくない。米ギャップ傘下でアメカジをテーマとした衣料品店「オールドネイビー」は、12年7月に日本1号店をオープンし、日本市場を攻略しようと試みた。だが、消費者に受け入れられず、わずか4年半ほどで撤退に追い込まれた。国内アメカジブランドの代表格となる「ライトオン」も苦戦を強いられている。19年8月期の連結最終損益は61億円の赤字(前期は4億円の黒字)に陥った。
こうしたアメカジ市場の低迷の流れには、アメリカン・イーグルも抗えなかった。もっとも、こうした市場縮小の流れはアメカジ市場だけで起きているわけではない。アメカジ以外の系統の衣料品市場も低迷している。つまり、カジュアル衣料品市場全体が厳しいのだ。そのため、アメカジを扱わないカジュアル衣料品店でも事業を縮小する動きが出てきている。
米ファストファッション大手のフォーエバー21は、今年10月に日本から撤退した。H&M(へネス・アンド・マウリッツ)は、日本1号店の銀座店(東京都中央区)を18年7月に閉めている。ギャップジャパンは旗艦店の原宿店(東京都渋谷区)を今年5月に閉店した。
このように、カジュアル衣料品市場全体で競争が激しさを増しており、優勝劣敗が進んでいる。アメリカン・イーグルは、こうした市場環境の中でユニクロなど力のあるブランドに押されて勢力を大きく拡大できず、日本から撤退することになった。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)