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鳥貴族、1年以上ずっと客離れで閉店ラッシュ…安易な値下げで“ただの総合居酒屋”化

文=佐藤昌司/店舗コンサルタント
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鳥貴族、1年以上ずっと客離れで閉店ラッシュ…安易な値下げで“ただの総合居酒屋”化の画像1鳥貴族の店舗(「Wikipedia」より)

 鳥貴族の業績が深刻だ。2018年8月~19年4月期の単独決算は、最終的なもうけを示す純利益が前年同期比65.9%減の3億1000万円だった。不採算店の閉鎖に伴う減損損失を1億7500万円計上していたほか、既存店売上高の低迷で収益性が低下したことが響いた。

 17年10月に実施した値上げで客離れが起きた。それ以降、既存店売上高の低迷が続いている。客数は今年4月と5月こそマイナスにならなかったものの、3月までは16カ月連続でマイナスが続いていた。客単価は値上げ以降上昇が続いていたが、昨年10月からはマイナスに転じている。客単価は今年5月まで8カ月連続でマイナスだ。そして、既存店売上高は5月まで17カ月連続でマイナスとなっている。18年8月~19年4月の累計では、客数が前年同期比5.6%減、既存店売上高が6.2%減となっている。

 18年8月~19年4月期の全社売上高は、前年同期比7.3%増の270億円にとどまった。前年同期(17年8月~18年4月期)の伸び率が18.0%だったことを考えると、明らかに失速している。本業のもうけを示す営業利益も冴えず、45.7%減の7億9900万円だった。

 既存店の不振に加え、店舗数が減少に転じたことが響いた。ここ数年は出店攻勢により年に70~100店増えていた。しかし、最近は既存店の立て直しに注力しているため、新規出店を抑制している。そのため、19年4月末時点の店舗数は、1年前と比べて35店多いものの、3カ月前と比べると18店少ない660店にとどまっている。ここにきて店舗数は減少に転じたことがわかる。

 17年10月の値上げがきっかけで業績が低迷しているわけだが、抜本的な解決策が見いだせていない状況だ。もっとも今年3月から5月の既存店売上高は以前と比べてマシになっている。3月の客数は前年同月比1.1%減、4月は横ばい、5月は0.4%増となり、既存店売上高は3月が2.7%減、4月が1.8%減、5月が1.4%減と微減にとどまった。それ以前は大半の月で5%以上のマイナスとなっていたことを考えると、状況は改善しているようにも見える。

 しかし、この改善は諸手を挙げて評価することはできないだろう。というのも、実質的な「値下げ」に頼って改善したためだ。鳥貴族は3月7日から5月10日までの期間限定で、「特別・晩餐会」と銘打った「食べ飲み放題」(2682円、税別以下同)と「飲み放題」(1192円)のキャンペーンを実施し、収益向上を狙った。ただ、「食べ飲み放題」は既存の飲み放題・食べ放題サービス「トリキ晩餐会」(2980円)を298円安くしただけのものでしかなく、「飲み放題」は5杯以上飲んだ場合に5杯目以降の金額を割り引くというものにすぎない。どちらも実質的な値下げにほかならないのだ。

 実質値下げは、ほかにもある。昨年9月13日から10月17日までの期間限定で、既存メニューの「ハイボール」の2倍の量となる「メガハイボール」を、通常のハイボールと同じ価格で販売し、その後、定番メニューに組み込んだことがそうだ。これも、2杯を提供して1杯分の金額を割り引いて販売しているにすぎず、実質的な値下げだ。

 深刻な客離れが起きてしまったため、客足を回復させるためにこういった実質値下げを実施するのは、ある程度は致し方ない面がある。しかし、当初の狙いであるコスト高を吸収することも合わせて考えると、値下げに頼らない施策で成功を収める必要があるだろう。ヒット商品を生み出すことなどが求められている。

サイドメニュー強化の功罪

 もちろん、鳥貴族は手をこまねいているわけではない。2月から愛知、岐阜、静岡、三重の4県限定で高付加価値の「感動メニュー」を月替りで投入し、集客を図っている。初月の2月は鶏肉とシーザーサラダがセットになった「チキンシーザープレート」を売り出している。これは値下げに頼らない施策といえるだろう。だが、「感動メニュー」は主戦場の関東と関西では販売していないため、今のところ収益への貢献は限定的だ。

 鳥貴族の主力商品である焼き鳥はアレンジがしづらく、差別化を図ることが難しい食材といえる。そのため、鳥貴族はサイドメニューを強化して差別化を図らざるを得ない。そこで、鳥貴族は差別化のために「感動メニュー」のほか、流行や季節に合わせた料理を提供する「期間限定メニュー」を売り出し、サイドメニューの強化を図っている。期間限定メニューでは現在、平成時代に販売したメニューを期間限定で復活販売しており、たとえばラーメンの「とり白湯めん」などを売り出した。

 こうしたサイドメニューの強化は、大手の回転ずしチェーンが行っている施策として広く知られている。回転ずしチェーンにおける主力のすしは、焼き鳥と同様にアレンジがしづらい食材のため差別化も難しい。そのため、大手各社はサイドメニューの強化に走っている。「はま寿司」がラーメンでヒットを連発し、「スシロー」がスイーツを強化していることが知られている。「くら寿司」がハンバーガーを販売したことも話題になった。鳥貴族もこれらに習ったかのようにサイドメニューを強化している。

 これもひとつの「解」ではあるが、一方でサイドメニューを強化してしまうと主力の焼き鳥の存在がぼやけてしまい訴求力が弱まってしまうというリスクも生じる。居酒屋業界では、なんでも販売する総合居酒屋が廃れ、特定の分野の食材を売りとする専門居酒屋が人気となっている。そうしたなか、鳥貴族は焼き鳥を売りとする専門居酒屋として隆盛を極めたわけだが、サイドメニューの強化は廃れた総合居酒屋に成り下がるリスクをはらんでいる。

 焼き鳥の訴求力を低下させないためにも、焼き鳥の品質維持と訴求力強化が欠かせない。品質に関しては、かつて「かっぱ寿司」がすしの品質が落ちたことで客離れが起きたように、鳥貴族も焼き鳥軽視でかっぱ寿司の二の舞にならないとも限らない。注意する必要があるだろう。

 鳥貴族の焼き鳥は、各店舗で串打ちを実施している。工場で行う場合に比べて店舗従業員の負担が増えてしまうというデメリットがあるが、一方で鮮度の高い焼き鳥を客に提供できるというメリットがある。だが、これによる味の違いを認識できる客は決して多くはないだろう。そのため、言葉を使って概念としてこうした品質の良さを訴求し続けていく必要がある。また、高い品質で提供できる一方で、店舗従業員の技術力の差によって味に差が出てしまうというデメリットもあるので、その対策も必要だ。鳥貴族は急拡大してきたため、従業員教育を徹底するなど対策を怠らないようにすべきだ。

 食の安心・安全に関する取り組み強化も欠かせない。鳥貴族では近年、食中毒事故が多発している。今年5月に大阪市の店舗1店が食中毒事故で行政処分を受けている。ここ数年ではほかに、18年11月に埼玉県川越市の1店舗、16年10月に京都市の1店舗、同年3月に東京都多摩市の1店舗、同年2月に横浜市の1店舗が食中毒事故で行政処分を受けている。食中毒以外では、16年に千葉県の店舗1店で、焼酎と間違えて消毒用のアルコール製剤を入れた酎ハイ151杯を客に提供していたことが発覚している。こうしたことが発生しないよう、細心の注意を払う必要がある。

 こうしたことを実現するためにも、既存店に注力する方向に舵を切ったのは正解といえる。既存店を立て直し、鳥貴族の良さを消費者に改めて伝えられるかが復活の鍵となりそうだ。
(文=佐藤昌司/店舗コンサルタント)

佐藤昌司/店舗経営コンサルタント

佐藤昌司/店舗経営コンサルタント

店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に勤務。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。

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