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片田珠美「精神科女医のたわごと」

検査拒否のチャーター機帰国者2人に批判、安易な隔離強制は危険…ハンセン病問題の教訓

文=片田珠美/精神科医
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中国で新型ウイルス肺炎拡大 マスクの需要高まる(写真:AP/アフロ)

 新型コロナウイルスによる肺炎の感染が拡大しているが、中国・武漢市からチャーター機の第1便で帰国した邦人のうち2人がウイルス検査を拒否したことについて、安倍首相は30日の参院予算委員会で「大変残念だ」と述べた。

 この2人は、なぜ検査を拒否したのか? 現時点では症状がないので大丈夫と思っているのか。あるいは、万一陽性という結果が出たら、隔離されることになって厄介なので、検査を受けたくないのか。もしかしたら、法的拘束力がない以上、検査を受ける必要などないと思っているのか。

 その胸中を推測するしかないが、この2人に対しては批判の声があがっており、「強制的に検査を受けさせるべき」「帰国したら一定期間隔離すべき」といった厳しい意見もあるようだ。

 たしかに、オーストラリアのように、武漢市を含む湖北省から待避させた自国民を、「クリスマス島」という孤島にウイルスの潜伏期間とされている14日間隔離する国もある。このように一定期間隔離することは、感染拡大を防ぐうえである程度有効なのだろうが、それが自由な民主主義国家でどの程度まで許されるのか?

 そもそも、隔離は、一般市民の安全と本人の人権を秤にかけて、法律の範囲内で行われるべきだ。感染症と必ずしも同列には論じられないかもしれないが、精神障害によって自傷他害の恐れがあると診断された措置入院の患者を何人も診察してきた精神科医としての長年の臨床経験から申し上げると、一般市民の安全を優先するあまり過度に隔離することは人権侵害につながりかねない。

 たとえば、旧ソ連では、数多くの反体制派が「緩慢な統合失調症」と診断されて、精神科病院に隔離されていた。この「緩慢な統合失調症」は便利な病名だった。「進行が遅い統合失調症なので、現在は症状が表に出ていなくても、やがて出現する」という理由で、反体制派を隔離することができたのだから。日本でも、ハンセン病の感染力は弱いことが判明していたにもかかわらず、1996年まで「隔離政策」が続けられた。

 もちろん、新型コロナウイルスへの不安が強いのは、よくわかる。新たに人間に感染したウイルスで、現時点では誰も免疫がなく、中国ではSARSを超えるほど感染者が激増し、何百人も死亡しているのだから、私自身も医療従事者の1人として不安がないと言えば嘘になる。

 ただ、武漢市からの観光客が乗ったバスの運転手とバスガイドが感染していたことから考えて、新型コロナウイルスは日本国内にすでに拡散しているのではないか。だから、感染しても症状が出ない「不顕性感染」の方も相当いるはずで、重症化するのはむしろ少数だろう。したがって、冷静に対処すべきで、「隔離」「隔離」と声高に叫ぶのは、いかがなものかと思う。

 それでも、今回ウイルス検査を拒否した2人の方には、やはり検査を受けていただきたい。もちろん、陰性であると確認できれば、誰よりも本人が安心できるだろう。また、たとえ陽性とわかっても、入院して適切な治療を受けられる。検査を受けずに、放置すれば、万一感染していた場合、重症化しかねない。結局は本人のためなのだから、きちんと検査を受けるべきである。

(文=片田珠美/精神科医)

片田珠美/精神科医

片田珠美/精神科医

広島県生まれ。精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。パリ第8大学博士課程中退。京都大学非常勤講師(2003年度~2016年度)。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析学的視点から分析。

Twitter:@tamamineko

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