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寺澤有「警察を見れば社会がわかる」

カジノ管理委員会の元警視総監、アドバイザー務める事務所がIR業務を手掛ける可能性

文=寺澤有/ジャーナリスト
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カジノ管理委員会

 2020年1月7日、カジノ管理委員会が発足した。同委員会は、特定複合観光施設区域整備法(以下、IR整備法)に基づき、カジノ事業の免許を付与するなどの権限を持つ。

「委員長及び委員は、人格が高潔であって、カジノ管理委員会の所掌事務の遂行につき公正な判断をすることができ、かつ、識見の高い者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する」(IR整備法第217条第3項)という規定により就任したのは、以下の5人(敬称略)。

委員長 北村道夫(元福岡高検検事長)

委員  氏兼裕之(元国税庁名古屋国税局長)

    遠藤典子(慶應義塾大学大学院特任教授)

    樋口建史(元警視総監)

    渡路子(精神科医)

 5人のうち、カジノ管理委員会の所掌事務を最もよく理解しているのは樋口氏である。2011年8月、樋口氏は警視総監に就任するが、前職は警察庁生活安全局長だった。警察庁生活安全局は、日本固有のギャンブルで、最盛期は「30兆円産業」といわれたパチンコを所掌している。

 また、IR整備法の国会審議では、「反社会的勢力の排除」が一大テーマだった。これに関連して、2018年6月1日、安倍晋三首相は衆議院内閣委員会で次のように述べている。

「暴力団員等の排除の際に必要に応じて都道府県警察に照会を行うなど、カジノ事業者が警察と連携することを想定しています」

 カジノ管理委員会における樋口氏の役割の大きさがわかる。

裏金問題でも「手腕」を発揮

 樋口氏は警察庁長官に次ぐ警視総監(東京都警察本部長)という地位まで上り詰めたわけだが、経歴上、今も語り継がれるのは、北海道警察(以下、道警)本部長時代、裏金問題を追及してきた北海道新聞(以下、道新)に逆襲して謝罪させたことだ。

 2003年11月、テレビ朝日の報道番組『ザ・スクープ』が旭川中央署の裏金づくりをスクープ。当時、道新報道本部次長だった高田昌幸氏(現在、東京都市大学メディア情報学部教授)は、著書『真実 新聞が警察に跪いた日』(柏書房/以下、『真実』)で、次のように書いている。

<裏金問題を先に報道されたことも衝撃だったが、内部告発が地元最大のメディアである北海道新聞を飛び越し、東京の放送局に届いたことも輪をかけて衝撃だった>

<互いに弁当をつつきながら、会議は始まった。その場で私は、おおむねこんな説明をした。

「この問題は徹底的にやろうと思う。旭川中央署だけの問題ではない。おそらく道警のあらゆる部署で裏金をつくっている。それを報道で明るみに出そう。その上で道警に公式に裏金づくりを認めさせる。それが最終目標だ」>

 マスメディアにとり、警察は最大の情報源だ。警察と対立すれば、事件・事故の情報が入手しづらくなり、日々の報道に影響する。1社だけが重要なニュースを報道しそこなう「特オチ」(「特ダネ」の反対)の危険性もある。だが、道新は裏金問題を追及し続ける。

 そして、1年間で1000本の記事を掲載し、2004年11月、道警に組織ぐるみの裏金づくりを認めさせた。その後、道警は、現職・退職警察官から9億円以上を拠出させて国と北海道へ返還することとなる。

 道警は一敗地にまみれたが、2004年9月、元道新室蘭支社営業部次長を業務上横領容疑で逮捕し、逆襲の端緒をつかんでいた。逆襲が本格化するのは、2005年8月、樋口氏が道警本部長に就任してからだ。捜査の対象は元道新東京支社営業部長や道新役員らへ広がっていく。

 高田氏は『真実』で2005年9月の状況を書いている。

<このころになると、社内情報が他紙の知人経由で聞こえてくることも多くなった。「北海道新聞でこんなことがあったらしいけど、内緒で教えてくれよ」といった感じである。どこで聞いたのかと反問しても友人たちは答えないが、「道警経由の情報」であることは否定しなかった>

 時計の針が少し戻るが、『真実』には、樋口氏が道警本部長に就任早々、道新の道警キャップを通じて、「道新のけじめ」を要求したことも書かれている。

 2006年1月14日、道新は朝刊1面に「(一部の記事は)記事の書き方や見出し、裏付け要素に不十分な点があり、全体として誤った印象を与える不適切な記事と判断しました。関係者と読者の皆さまにご迷惑をおかけしたことをおわびします」とする社告を掲載した。合わせて、後日、高田氏らも懲戒処分を受けた。

樋口委員の就任は利益相反

 カジノ管理委員会は内閣府の外局だが、内閣府の庁舎ではなく、東京都港区虎ノ門の超高層オフィスビル「城山トラストタワー」に置かれている。超高額の賃貸料が発生しているのは間違いない。もちろん原資は税金だ。

 2020年1月30日、筆者はカジノ管理委員会を訪ねた。樋口氏がカジノ管理委員として、IR整備法第217条第3項(前出)にいう「人格が高潔であって、かつ、識見の高い者」かどうかはおくとしても、「カジノ管理委員会の所掌事務の遂行につき公正な判断をすることができ」るかどうかは明らかに疑問だからである。以下、質問の全文だ。

「樋口建史委員は西村あさひ法律事務所のアドバイザーを務めていますが、同事務所のホームページを閲覧すると、同事務所はすでにIR(カジノを含む統合型リゾート)に関する業務を手がけているか、今後、手がける可能性が高いと思われます。その場合、樋口委員には利益相反などの問題が発生しますが、どのように考えますか」

 西村あさひ法律事務所は日本最大の法律事務所である。こちらでも樋口氏は多額の報酬を得ているはずだ。

 翌日、カジノ管理委員会事務局総務課は以下のように回答してきた。

「今後、どのような企業が、IR・カジノ事業に関与するかは未定であり、仮定の質問にはお答えしかねる」

 安倍首相の長期政権下、公務員は国民の利益のためではなく、自分たちの利益のために動くことが当たり前となった。この回答はカジノ管理委員会も例外ではないことを示している。

(文=寺澤有/ジャーナリスト)

寺澤有/ジャーナリスト

寺澤有/ジャーナリスト

1967年2月9日、東京生まれ。 大学在学中、自動車雑誌『ニューモデルマガジンX』でジャーナリストとして活動開始。それ以降、 警察官、検察官、裁判官、自衛官などの不正を追及。 2014年、国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」から「100人の報道のヒーロー」として表彰される。

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