越年捜査のIR汚職事件で、収賄の疑いで逮捕された現職衆院議員の秋元司容疑者が年明け、通常国会の召集が見込まれる1月20日までに起訴される見通し。通常国会は、「桜を見る会」をめぐる疑惑と、このIR汚職事件が政局の中心となり、冒頭から大荒れ必至。厳しい野党の追及に安倍晋三首相が耐えられるのか。
野党はカジノ解禁の根拠法となる「IR整備法」の廃止法案を通常国会に提出すると意気込んでいる。これも政府にとっては頭が痛い。東京五輪で訪日外国人激増が期待される2020年を“IR元年”として盛り上げるつもりだったからだ。
1月7日に、IRの事業者を規制・監督する「カジノ管理委員会」が発足する。メンバーは5人で、委員長は元福岡高検検事長の北村道夫氏、委員は元名古屋国税局長の氏兼裕之氏、精神科医の渡路子氏、慶大大学院特任教授の遠藤典子氏、元警視総監の樋口建史氏になった。1月には、自治体が事業者を選ぶ基準などを示す「基本方針」も正式決定される予定だ。
これを受け、IR誘致を目指す自治体は実施方針の策定を具体化。誘致合戦の号砲が鳴る。整備地域は「最大3カ所」。現時点で国交省の意向調査に「予定している・検討している」と回答しているのは、東京都、横浜市、千葉市、名古屋市、大阪府・市、和歌山県、長崎県の計7地域だ。どこが有力なのか。
米カジノ運営会社が日本参入を熱望していることは周知の事実。2017年の日米首脳会談時、トランプ大統領が直接、安倍首相に対し、自身の大口献金者であるシェルドン・アデルソン会長が経営するラスベガス・サンズに日本参入の免許を与えるよう迫ったと、米の調査情報サイト「プロパブリカ」で報じられた。
米カジノ運営会社の意向=トランプ大統領の意向が整備地域選定に影響すると考えると、東京と横浜は最有力候補だ。もともと大阪での入札参加に意欲を示していたラスベガス・サンズは、横浜市が誘致に乗り出した直後の昨年8月、大阪での入札参加を撤回。横浜での入札に転向する方針を明らかにし、同時に「東京にも焦点を当てる」と表明しているからだ。東京都については、まだ「検討」段階にすぎないが、今年7月の都知事選をターニングポイントとして、誘致に乗り出す可能性がある。
東京と横浜、ダブル当選も
「小池百合子都知事は今のところ記者会見や都議会などで、『メリット、デメリットの両面あることから、総合的に検討していく』とIR誘致への明言を避けているが、国会議員時代にはIR議連(国際観光産業振興議員連盟)のメンバーだった推進派。対立関係にある自民党都連との間で、例えば都知事選で自民党が候補者を立てない代わりに、小池氏が再選後にIR誘致に舵を切るなどの“取引”が行われることが考えられる」(自民党関係者)
東京と横浜については「近すぎるので、どちらか1カ所だろう」との見方がある一方、「ラスベガスなど海外ではカジノは“はしご”するもの。インバウンドの観光客が長く滞在するのは圧倒的に首都圏なので、きょうは東京、明日は横浜、は成立する。東京と横浜の両方にあっていい」というカジノ関係者もいる。両方当選もあり得る。
最も計画が進んでいる大阪も有力候補ではある。大阪府・市にとって、2025年の大阪万博とIRは「セット事業」。万博前の全面開業は困難でも、一部開業で万博を盛り上げる計画は崩していない。松井一郎大阪市長が代表を務める日本維新の会は、カジノ誘致のために安倍政権の国会運営でさまざまな協力をしてきた。松井市長は「大阪が選ばれるのは当然」と思っているはずだ。
そうなると、東京、横浜、大阪の都市部で3カ所となるが、「それでは地方切り捨て批判が起こるので、どこか地方を1カ所入れるだろう」(官邸関係者)とも。これを裏付ける発言もある。昨年9月に「基本方針案」が公表された際、菅義偉官房長官は「優れたものであれば都市、地方にかかわらず、認定していく」と言っている。
当初、菅長官に近い鈴木直道知事の北海道が有力だと見られていたが、北海道は昨年11月に誘致断念を決め、手を降ろした。長崎か和歌山のいずれかが選ばれるのか。ちなみに長崎は公明党が推す地域、和歌山は自民党の二階俊博幹事長の地元である。誘致合戦の行方はいかに。
(文=編集部)