新型コロナウイルスの感染者が大量発生したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に関し、橋本岳厚生労働副大臣(岡山県第4選挙区、衆議院議員)がTwitterに投稿した見解が物議を醸している。
神戸大学医学研究科感染症内科教授の岩田健太郎氏が18日に乗船し、船内の検疫体制が危険な状態にあることをYouTubeで指摘したことに対する反応だった。橋本副大臣は投稿で岩田氏の乗船を「検疫中の船舶に医師が侵入した」と述べ、インターネットユーザーや同省関係者からは「明後日の方向を向いた批判だ」と批判が相次いでいる。
「預かり知らぬところで、医師が船内に立ち入る事案」
橋本副大臣は19日、自身の公式ツイッターアカウントで次のように連投した。
「なお昨日、私の預かり知らぬところで、ある医師が検疫中の船内に立ち入られるという事案がありました。事後に拝見したご本人の動画によると、ご本人の希望によりあちこち頼ったあげくに厚生労働省の者が適当な理由をつけて許したとの由ですが、現場責任者としての私は承知しておりませんでした。
お見掛けした際に私からご挨拶をし、ご用向きを伺ったものの明確なご返事がなく、よって丁寧に船舶からご退去をいただきました。多少表情は冷たかったかもしれません。専門家ともあろう方が、そのようなルートで検疫中の船舶に侵入されるというのは、正直驚きを禁じ得ません。
ただの感染症蔓延地域ではないのです。本件は厚生労働省本省に伝え、なぜこのような事案が発生したか確認を求めています。現在厚生労働省は、閉鎖船内における新しいウイルスによる感染症の発生という事態の中で、多くの専門家のお力を船舶内外からいただき、臨船検疫を行っています。
ただ実際に職員の感染が判明してしまった状況の中で、完全なコントロールができていると申し上げることはできません。限られた空間、限られた人員資源の中で、しかし今なお臨船検疫中の乗客や乗員の方々、あるいは多数の地域や医療機関や組織のご協力により、改善を重ねながら一人でも多くの方の感染を防ぎ、また感染や発症した方を病院に搬送する業務を続けています。ご協力いただける多くの方に感謝の気持ちを持ちつつ、厚生労働省としては、引き続き全力を尽くします」
橋本事務所「見解に関する質問は厚生労働省へ」
投稿の中で、「ある医師」「事後に拝見したご本人の動画」とあることから、神戸大の岩田教授を指しての発言に見える。そもそもこの発言は、橋本氏個人としてなのか、厚生労働副大臣としての発言なのか。
衆議院第二議員会館にある橋本岳(がく)国会事務所に発言に関する真意や事実関係を確認しようとしたところ、事務所担当者は次のように回答した。
「お問い合わせの件は厚生労働省の広報にご連絡ください。このアカウントは、議員個人というか、厚生労働副大臣としてというよりも、個人の見解というか。いずれにしましても、厚労省の広報にお問い合わせください」
意味がわからないので、厚生労働省大臣官房広報室に問い合わせてみたが、担当者は「あれは個人のアカウントでの見解ではないのでしょうか…。こちらでは対応できかねます」と困惑した様子だった。
そもそも、議員個人の見解や発言に関して厚生労働省の広報に問い合わせを勧めるのは筋違いだし、副大臣としての見解であるのなら会見などで述べればいいのではないか。投稿で主張するように、感染症予防のための「コントロール」の重要性を訴えるのであれば、そもそも自身の発言も含めた情報発信もコントロールできていなければならないのではないか。
「日本はダメな国」「次は諸外国に門戸を閉ざされる」
厚生労働省技官OBの医師は次のように話す。
「単純に自身のメンツにこだわった結果でしょう。『俺の許可なく勝手に入って、勝手に情報公開しやがって』ということでしょう。現場の医療関係者の備えについての話なのに、焦点がずれた明後日の方向を向いた見解に思えます。
実際、厚労省内部でも部局が少し違うだけで、ダイヤモンド・プリンセスの内情はよくわかっていないというのが実情なようです。DMAT(災害派遣医療チーム)の関係者から漏れ伝ってくる情報はありますが、それでも今回の岩田先生のお話は衝撃でした。
メンツや自身の派閥に関係なく、日本の総力を尽くして防疫しなければいけない事案なのに、いったい何のための情報統制や乗船・下船のための人員コントロールなのでしょうか。今回の新型コロナウイルスの事案をまともにコントロールする能力がないのなら、より重篤で危険なウイルスのアウトブレイクが起こった際はどうするのでしょうか。日本人はすぐ忘れるでしょうが、この一件が知れ渡れば『日本はダメな国だ』との印象を世界中に根付かせ、今後、何かが発生した際、諸外国は日本への門戸を閉ざすでしょう。今の中国と同じです」
橋本副大臣のTwitterアカウントにも、一般ユーザーから次のように疑問が相次いでいる。
「ほんと、1人の専門家を責め 責任逃れするまえに他に言うことがありますね しっかり事実を明言したうえで責任を取れよ」
「では現場責任者として、あなたの責任で、グリーン・ゾーン、レッドゾーンの区別がなされてなかったのですね。責任を取られるんですね」
「感染症の専門家を入れずに対応してきたため、感染者が増え、検疫官、DMAT、厚労省職員まで感染したことは事実です。この事実があった上で尚専門家の意見に聴くことができず排除したことに疑問を持たざるを得ない。感染拡大させたいのなら別ですが」
19日、ダイヤモンド・プリンセス船内に残っている乗客や乗員の下船が始まった。同日は約500人が下船する。政府は乗客下船後に、一連の対応が適切だったかを検証する方針を示している。後の祭りにならなければ良いのだが。
(文=編集部)