3月12日放送の『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)に、いきなり!ステーキ創業者でペッパーフードサービス社長の一瀬邦夫氏と、すかいらーく創業者で「外食業界のレジェンド」と呼ばれる横川竟氏が出演した。そこで語られた経営論が話題を呼んでいる。
昨年、バーガーキングが23の不採算店舗を整理し、幸楽苑は今年1月に51店舗の閉鎖を発表するなど、苦境が続く外食業界。その中で、年内に74店という大量閉店に追い込まれているのが、いきなり!ステーキだ。
そんないきなり!ステーキについて、横川氏は「うまくやればいい会社になるし、今の形だと、どっかでガシャッと修正しないといけないんで」と指摘。一方、予想外の業績低迷に直面する一瀬氏は「それでも5年間もずっと右肩上がりで行ったんですからね」「良かったときのことが忘れられないですよ」と現在の心境を語った。
2013年にオープンしたいきなり!ステーキは、コストパフォーマンスに優れた立ち食いスタイルで大人気を博した。しかし、その斬新な業態が模倣され、今や街なかには競合店が急増している。昨年、新鮮な牡蠣も提供するオイスターバーをオープンするも起爆剤にはならず、ペッパーフードサービスの2019年12月期連結最終損益は27億円の赤字で2期連続の最終赤字となった。また、上場以来初となる営業赤字(7100万円)も記録している。
横川氏は「どこへ出したかが問題で。失敗するんです、立地っていうのは」と出店戦略のミスを指摘。わずか数年で500店を出店したことについて、一瀬氏は「やっぱり、僕は出店を急ぎすぎましたよね。お客様がいないところにも出してしまった」と反省の弁を述べた。
「企業側の論理か、お客さんの論理か」
ここから、横川氏と一瀬氏の経営観の違いが浮き彫りとなる。横川氏が「企業側の論理で拡大するのか、お客さんの論理で拡大していくのか」「一瀬さんは“いきなり!ステーキで日本一になりたい”という思いがすごい強いんだと思います。強すぎるから、店をたくさんつくっちゃうんです。すると不足するのは、人と良い立地がなくなる」という見解を披露すると、一瀬氏は「僕、全然そうは思ってないですね。日本で一番のステーキ屋さんになろうと思ったことはないんです」と反論した。
インタビュアーの村上龍から「飽きられちゃったっていうのはないですか?」と聞かれると、「僕の油断だと思います」と語った一瀬氏。横川氏は「経営っていうのは、良いときも悪いときも自分のペースを乱さずにやっていくことが大事なんですね。一瀬さんは自分のペースを乱したんです。たくさんつくりすぎた、一気に」と、やはり厳しく指摘した。
さらに、話題は昨年12月に店舗前に掲出された、一瀬氏直筆のメッセージの件に。張り紙には自身の思いや原価率の高さが綴られており、一瀬氏は「いかにうちのステーキが得か、おいしくて」をアピールする目的だったというが、横川氏は「僕個人の趣味で言うと、僕は書きません。商売というのは、これを商品で表現することです」と一刀両断。一瀬氏も「やっぱり商売っていうのは、自分がおいしいと思うものをお客様に食べていただきたいと思うので」と持論を展開した。
ここで、村上が「一瀬さんは自分が食べたいメニューで店を出す、横川さんはいわゆる顧客目線みたいな感じ」と両者の違いを整理した。すると、横川氏は以下のように述べた。
「気をつけなきゃいけないことは、自分が好きなものがお客が求めているものと同じだと思っていれば、それでいいです。僕は同じだと思っていなかったので」
「自分がおいしいものが相手がおいしいとは限らないという前提で、相手の口に合わせた味と素材の組み合わせをした。基本は、お客さんが求めているものを売らない限り、ものは売れないです」
この展開に、視聴者からは以下のような声が上がっている。
「トップがほしいものを出しても、消費者がそれを望んでいなかったら売れないってことね。わかりやすい」
「いきステの社長、自己中心的なやり方をことごとく否定されていて笑った」
「横川さんの指摘が的確すぎて対比がエグい」
「けっこうガチな説教じゃないですか、これ。悲惨だわ」
「いきステの社長は自分のミスを認めたくない典型的なワンマン経営者に見える」
「大量閉店と赤字の最大の原因が社長自身にあるってことがよくわかった」
いきなり!ステーキの“矛盾”とは
この後、番組では「いきなり!ステーキは高い」という街の声を紹介。一瀬氏は、原価率が高く定価をグラムで割った単価で考えれば「明確にうちのほうが安い」と訴えたが、横川氏は「肉以外の価値が少ないから、と言っておきましょうかね。要するに、立って食べることに価値があるかと、ない」とバッサリ。
また、1グラム7円という価格設定について、横川氏は「実は、はじめよりも少し高くなってきているんですよね。でも、関税は下がってきてますよ」「そこにひとつ矛盾が出てくる」と消費者目線で課題に切り込んだ。さらに、多店舗展開の拡大路線について、一般論として「あるとき、人口が止まる、店出すところがなくなる。止まったときに、価値づくりをしなかった弊害が出てくるんです」と述べた。
番組後半では、新たなモデルで挑戦する若手外食経営者が登場し、横川氏が指南するシーンも放送された。その内容が、「まさに一瀬氏に聞いてもらいたい内容だ」という声が上がっている。それは、以下のような話だった。
「成功するためには買ってもらわなければいけない。買ってもらうためには、自分の意見ではなくてお客さんがしてほしいことに徹したからだと思います。商売ってそういうものなんですよね。基本を忠実にやり続けると、3カ月から6カ月で数字は変わります。変わらなかったら、自分のやっていることが間違っているんだと思えばいい」
村上から「それは飲食店に限ったことですか?」と聞かれた横川氏は、こう返答する。
「ニトリさんにしても、ユニクロさんにしても、良い理由がちゃんとあるんです。全部、消費者の価値に合わせて自分たちの行動を変えた人たち。消費者が得しない限り、ブランドにならない」
「言われて変わるのではなくて、言われる前に変わらないと、お客さんっていなくなっちゃうんです」
そして、村上の「思想がダメだったら生き残れないってことですか?」という質問に「そうです」と即答した。
一方で、「いきなり!ステーキ、一瀬さんは、なんとかすれば立ち直れますよね?」との問いに、横川氏は「立ち直れます」とも断言していた。
苦境のいきなり!ステーキが連発する改善策
巻き返しを図るいきなり!ステーキは、「いきなり!原点回帰」として、創業時の価格である1グラム5円を復活させるフェアを都内3店舗限定で実施している(3月31日まで)。また、オーダーカットのみだった注文方法に定量カットメニューを導入し、立ち食いからローテーブルと椅子に変更するなど、ファミリー層を呼び込む施策を次々と打ち出している。
さらに、900円のランチセット(一部店舗での限定発売)、ニュージーランド産のサーロインステーキ(2月から四国での限定発売)などの新しい試みを取り入れるなど、一瀬氏も挽回に全力を注ぐ構えだ。
普段より放送時間が拡大された同番組の外食スペシャルに対して、視聴者からは「神回だった」「横川さんの金言は外食に限らず、すべての働く人が聞いたほうがいい」と絶賛の声が相次いでいる。
もともと、外食業界は参入障壁が低いものの、継続させるのは至難の業といわれる。空前の人手不足に加えて、新型コロナウイルスの問題による消費減退が直撃する中、生き残りのヒントが多く潜んでいたのかもしれない。
(文=編集部)