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日本製鉄の没落、巨額赤字で高炉閉鎖加速…地域経済に壊滅的打撃、世紀の大統合失敗か

文=編集部
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日本製鉄君津製鉄所(「Wikipedia」より/Chime)

 日本製鉄は、新日本製鐵と住友金属工業の統合以来、維持・持続にこだわってきた製鉄所に根本的にメスを入れる。2基の高炉がある呉製鉄所(広島県呉市)を2023年9月までに閉鎖し、和歌山製鉄所(和歌山県和歌山市)の高炉のうち1基を22年9月末までに休止することを柱とする大規模な生産設備の合理化策を打ち出した。すでに決めている八幡製鉄所小倉地区(福岡県北九州市)の高炉の休止時期を20年9月末に前倒しする。

「高炉の火が消える」と、地域経済は崩壊への道をたどる。

次に火が消えるのは鹿島製鉄所か

 日本製鉄は20年3月期の業績予想を下方修正した。連結最終損益(国際会計基準)は4400億円の赤字(前期は2511億円の黒字)となる。従来は400億円の黒字を見込んでいたが、鹿島、名古屋、呉の3カ所の製鉄所などで4900億円の減損処理を実施することにしたからだ。

 旧新日鐵と旧住金は12年の合併前に、2社で2400億円の減損損失を計上したが、今回の減損の規模は、その時の2倍にあたる。高炉のある製鉄所の全面閉鎖や全国にまたがる製鉄所で設備休止を一気に行う合理化はこれが初めてのため、減損損失が膨らんだ。

 それでも、高炉の合理化は、やっとスタートラインに立ったばかりだ。日本製鉄は6製鉄所体制に再編する。室蘭、東日本、名古屋、関西、瀬戸内、九州である。1つの製鉄所に2つの高炉はいらない。瀬戸内は、呉製鉄所(旧住金)を閉鎖し、広畑製鉄所(旧新日鐵)に一本化する。関西は、和歌山製鉄所(旧住金)の高炉を1基減らす。

 九州は早晩、八幡製鉄所の高炉を閉鎖し、大分製鉄所(旧新日鐵)に集約することになろう。東日本には君津製鉄所(千葉県君津市、旧新日鐵)と鹿島製鉄所(茨城県鹿嶋市、旧住金)の高炉がある。鹿島は赤字であることから、近隣の君津に集約されるという見方が、前々からあった。今回、鹿島は、ドラスチックな統廃合案の対象から外された。

「粗鋼生産量が大分、君津に次ぐ規模であり、休止を決めれば、代替生産がスムーズに行かず、顧客を失うリスクが高かったからだ」(関係者)

 だが、鹿島の赤字がさらに膨らめば、そんな悠長なことは言っていられなくなる。鹿島製鉄所が発祥の鹿島アントラーズの経営権はすでにメルカリに移った。鹿島製鉄所が呉と同じ運命をたどる日が、遠からずやってくる。

高炉を備えた一貫製鉄所の閉鎖は初めて

 呉製鉄所は日本製鉄の傘下に入った日新製鋼(現日鉄日新製鋼、4月に日本製鉄と合併の予定)の主力拠点。「戦艦大和」を建造したことで知られる旧日本海軍の呉海軍工廠の跡地に1951年に建設された。自動車の高機能鋼板などを製造している。

 日本製鉄は19年11月、国内に16カ所ある製鉄所や製造所を6つの組織に再編する方針を決めた。呉製鉄所は広畑製鉄所(兵庫県姫路市、旧新日鐵)などと共に「瀬戸内製鉄所」として高炉は残る見通しだった。地元、呉市には一時、「存続する」との安心感が広がった。

 ところが、1年半後の全高炉休止、3年半後の閉鎖の方針に変更された。高炉から製品の加工・出荷までを一貫して担う国内の製鉄所が閉鎖されるのは極めて異例だ。

「まさか全面閉鎖とは」――。中国新聞電子版(20年2月7日付)は、地元に走った衝撃を、こう伝えた。

<従業員たちからは「あの火災さえなければ…」と嘆きが漏れる。呉製鉄所内の第1製鋼工場で19年8月30、31日に連続して起きた火災が、方針の急転を招いた要因の一つとみているからだ。関係者によると、30日は、溶けた鉄が転炉からあふれ、ダンプカーや建物の一部を焼損。31日の火災は、より深刻な被害をもたらした。消火の水でまだぬれていた配線に通電したため、ショート。電気系統が焼けたという。電気部門の現場を知る70代の元男性社員は「考えられないミス。再稼働を変に焦ったとしか思えない」と指摘する。(中略)火災後、復旧のめどは立たないまま。別の従業員は「急ぐ様子がないのでおかしいと思っていた」と予兆を感じていた>

 日新製鋼の呉製鉄所は17年、新日鐵住金(当時)が日新製鋼を子会社にした際、「われわれの技術力を投じれば相当強い製鉄所に生まれ変わる」(新日鐵住金幹部)と豪語していた。だが、18年、西日本豪雨で大きな被害を受けた後に、2度の火災まで発生し、壊滅状態となり、全面閉鎖に追い込まれた。

 17年、日新製鋼を買収した際、「利益創出効果は300億円」と見込んでいた。それどころか、結果的には1000億円近い赤字を抱えることとなった。「日新製鋼買収はなんだったのか」といった冷ややかな声が、製鉄業界の首脳の間から漏れてくる。

広島県呉市は呉製鉄所の企業城下町

 製鉄所は関連・協力会社が多く、地元経済を支える大黒柱である。呉市は呉製鉄所の企業城下町だ。製鉄所の全面閉鎖は地元経済に壊滅的な打撃を与えることになる。呉製鉄所は協力会社を含めて従業員3300人を抱えている。資材を納入する業者や運輸関係など裾野は広い。

 帝国データバンク広島支店によると、「日鉄日新製鋼のグループ6社と取引がある広島県内の企業は117社。うち従業員10人未満は33%。売上高が10億円未満は59%を占める」。中小企業が大半というのが取引の実態だ。呉製鉄所の仕事がなくなれば倒産、廃業するところが、多数出てこよう。

<ホテル、旅館業界も危機感を募らせる。市ホテル旅館組合は「客が3、4割減るところもあるかもしれない」。年に数回ある製鉄所の定期修繕で多くの事業者が出入りするからだ>(前出中国新聞)

 今回突き付けられた3年半後の閉鎖について、「早過ぎる」とショックが広がる。全面閉鎖までの3年間で協力会社などは対応策を講じられるのだろうか。消費はとめどなく落ち込み、地域経済の崩壊が現実のものとなる。

和歌山製鉄所は和歌山経済のシンボル

 日本製鉄の鉄鋼再編のシナリオでは、和歌山製鉄所は「関西製鉄所」になるはずだ。和歌山製鉄所は旧住友金属工業の主力製鉄所である。1942年の操業開始以来、地元経済の屋台骨を支える存在だ。天然ガス開発用の継ぎ目のないシームレス鋼管や、機械製品・建築物に使われる形鋼などを製造している。

 休止を決めたのは510億円を投じ、09年7月に火入れした第1高炉。関連設備の第4・第5コークス炉なども含め、22年9月までに休止することになった。第1高炉には、住金出身者の思い入れが強い。新日鐵住金が誕生する前、新日鐵と統合するようになったとしても、「住金の高炉が残るように」と考え、下妻博会長以下、当時の住金の経営陣が造ったとされている高炉だからである。その第1高炉が休止になる。わかやま新報(20年2月9日付)は地元の反発を報じた。

<休止発表を受け、仁坂吉伸知事はコメントを発表。利益率の低い普通鋼スラブの生産を停止することになった一方、同製鉄所の出荷先である台湾鋼鉄向けのスラブの供給を打ち切るわけでないことから、「なぜ新鋭の和歌山製鉄所の高炉を休止するに至ったのか理解に苦しむ」との懸念を表明した>

 和歌山製鉄所の敷地内で働く従業員は約3500人、協力企業を含むと約1万人に達する「和歌山経済のシンボル」だ。高炉の休止で協力会社を含め約500人の雇用に影響するため、地元に動揺が広がっている。

株価は857円まで崩落

 日経平均株価の暴落で日本製鉄の株価は3月17日、857円まで下げた。昨年来高値は19年4月8日の2081円だから6割近い下げ。株価は半値以下になった。その後、3月25日に1000円台を回復したが、26日の終値は129.2円安の955.8円。一時、134.9円(12%)安の950.1円まで下げた。

(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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