深刻なマスク不足が解消する気配は、まだ見えない。首都圏のドラッグストアでは連日、開店前から長蛇の列ができている店舗も見かける。
筆者も手持ちのマスクの残数が少なくなり、開店数時間前から並んでみたのだが、並んでいる人の多くは老人か学校が休みになった学生たち。平日の早朝から行列に並ぶことのできない独身の会社員などの状況は深刻だと容易に想像ができる。
マスクの品薄を満たすため増産は続き、4月には月間7億枚の供給が可能とされているが、必要とされる施設に優先的に供給されるため、品薄の解消にはまだ時間がかかりそうだ。
そうしたなかで始まっているのが、中国からの輸入である。3月末には政府が中国から輸入したマスク1000万枚が到着し、全国の医療機関への配布を開始。政府では4月には週に3000万枚程度の輸入を目指している。
武漢市をはじめとした都市を封鎖するなど事態が深刻化した中国では、マスクの大規模な増産を実施。3月初頭には中国国家発展改革委員会が、一日あたりの生産量が1億枚を突破したと発表している。政府系メディアである「人民網」の日本語版でも3月13日に『中国で「マスクがない」に終止符』との記事を掲載。今や中国国内ではマスクの供給は安定し、海外に対しても十分な輸出量を確保できていると思われた。
ところが3月下旬になり、オランダで医療機関に配布された中国製マスクが品質基準に満たしていないとして回収される事案が発生。回収されたマスクの数は数十万枚にも及んだ。同様の問題は中国製マスクを輸入したヨーロッパ諸国でも発生しており、中国製マスクへの信頼性は極めて低下している。
中国国内でも問題化
こうした劣悪な品質のマスクは中国国内でも多数流通し、問題になっている。現在も封鎖が続く武漢市の男性は、次のように語る。
「マスクは容易に入手できるようになりました。薬局だけでなくスーパーでも売られるようになったのですが、私は薬局で買うようにしています。なぜなら、スーパーで売られているものには品質の極めて悪い製品が多いのです。こちらの写真の右がスーパーで売られているものですが、明らかに材質が薄いのがわかるでしょう」
もともと中国では、「スーパーで売られている品物を信用してはいけない」といわれるほどに質の悪いものが混じっているというが、政府の指示で増産が続くマスクでもこんなことが起こっているとは驚くばかりだ。この原因として挙げられるのが、供給量だけが重視されたことだ。中国政府は、防疫製品の生産に参入した企業に対して補助金の支給を始めている。そのため、まったく無関係な企業も参入し、供給量は増えたものの品質の管理が追いついていないのである。
「市民からの苦情で、質の悪いマスクを販売したスーパーには罰則が科せられました。ただ、薬局であればそんなにひどいものはありません。価格は、先日買った製品の場合、50枚入りで80元(約1200円)です」
供給量が増えたとはいえ、中国国内でも需要が多い地域では、まだプレミア価格で販売されているといえる。
現在、日本国内の大手通販サイトでは、転売品が追放された後に「4月中旬以降発送」として、多くのマスクが出品されるようになっている。だが、いずれも50枚で3000円以上と、一時の転売品ほどではないが高価格だ。「国内発送」と記述されているものが多いが、生産国を明記していない業者も多い。ましてや、「中国産」を明記している例はほとんど見かけない。なかには、コスプレ用品を販売している業者が突如、マスクの販売を告知しているようなケースもある。
インターネット上でマスクを購入した場合に、果たしてどんな品質の製品が届くのか。覚悟して待っていたほうがよさそうだ。
(文=昼間たかし/ルポライター、著作家)