新型コロナウイルスの影響でマスクの品薄状態が続いている。どこでも売っていたはずの箱マスクが、まったく見かけなくなった。筆者も自宅のマスク在庫が心許なくなってきたので、近所のドラッグストアに開店2時間ほど前から並んでみた。その日は入荷があったので、7枚入りを1袋だけ入手することができた。
政府は増産、国保有分の放出。転売の禁止などでマスクの流通を促しているが、しばらくは行列しなければ買うことができなそうだ。
そうしたマスク不足のなかで、次第に増えているのが手づくりマスクだ。マスク不足が始まった2月中旬からインターネットで広まったのが、キッチンペーパーを使った簡易マスクだ。ただ、実際につくってみると、息が苦しいばかりか、ペーパーのカスが唇にまとわりつくなど不具合もある。そのため、より耐久性・快適性の高いものとして布製マスクの手づくりが次第に広まっている。
つくり方は各種のウェブサイトやYouTubeなどで広まっている。また、テレビ番組でも3月4日の『あさチャン!』(TBS系)で「わずか10分 500円で完成 手作りマスクでウイルス対策」というタイトルで紹介されるなど、注目度は高い。しかし、そうして広まったことで、手軽に「500円で完成」とはいかなくなっているのだ。
需要の高まりを受けて、手芸用品店ではマスクの材料コーナーを設けるところが増えた。店頭には、マスク本体に使うガーゼ素材と耳にかける部分(ポリエステルヤーン)などが陳列されている。しかし、その在庫は決して潤沢ではない。ガーゼ素材もマスクに最適な白色の生地は売り切れてしまい、入荷未定となっている。ほかの色も地味なものから売り切れて、マスクとして装着すると目立ちそうな柄物ばかりが残っている。それでも、買い占めを防ぐために購入制限がある。都内のある手芸用品店では、生地は2メートル、ポリエステルヤーンは5個までの購入制限を行っていた。特にポリエステルヤーンは、普段は需要が限られているのか「在庫分がなくなったら、入荷は未定」という。
手づくりマスクの普及で意外な素材が品薄に
ただ、生地と耳にひっかける紐だけでは市販の使い捨てマスクのような密着感のあるものにはならない。そこで需要が高まっているのが、「テクノロート」だ。これは、市販の使い捨てマスクの鼻の部分に入っている素材だ。
テクノロートはこれまで、模型や手芸には用いられるものの一般にはまったく知られていない素材だったが、マスクを求める人たちに知られたことで急激に需要が高まり、品薄の状況となっている。
「今後、マスク生産が優先されるので、入荷は難しくなるのではないかと思っています」(都内手芸洋品店スタッフ)
テクノロートについて、インターネット通販サイトで見る限り、多くは「入荷未定」だ。「メルカリ」などでは、需要が増加することをあてこんでか、元の値段の10倍近くで販売する者も出てきている。ただ、元の商品は5メートルで300円もしないくらいなので、転売屋が10倍の値を付けたとしても利幅は薄い。
また、いくつかのサイトに掲載された手づくりマスクのつくり方を見ると一目瞭然だが、長方形に紐がついただけのような単純な形状のマスクも、実際には結構なテクニックがいる。自宅にミシンがなければ製作は困難なので、新たな投機の対象となることは想像しがたい。
製作に思いのほか手間がかかることに加え、市販マスクよりも効果が薄そうなこともあり、需要はあまり伸びそうもない手づくりマスクだが、マスクの供給不足の長期化を不安視する人々からは救世主のように見られている面がある。
「しばらくは手づくりマスクの需要はあると思っています。さまざまな材料があるので、耳当て部分などは代替になるものを提案していきますし、ガーゼ素材の生地も柄物でよければなくなるということはないと思います」(同)
次々と新たなマスク製作方法が生まれることで、一日も早くマスクの品薄状態が解消されることを願う。
(文=昼間たかし/ルポライター、著作家)