新型コロナ、「5年生存率が肺がんより低い」は誤情報で「型が2種類ある」は真実の可能性
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、インターネット上ではフェイクニュースも多く、人々の不安は増大するばかりだ。そんななか、医療ジャーナリストの筆者のもとにも多くの相談が寄せられている。そのなかでも説明が必要と思われる2点を取り上げる。
(1)最近、新型コロナ肺炎に関して、「治っても肺が繊維化するので、5年生存率は肺がんより低いとみられる」という報道
(2)「新型コロナのタイプが2種類あり、感染速度や致死率に違いがある」という報道
これらに関して本当かという質問が多く寄せられたので、医師の見解とともに説明したい。
5年生存率は肺がんより低い?
ウイルス性肺炎とは、ウイルスが肺に感染して発生する肺炎。その特徴は発熱、咳、重症の場合は呼吸困難をきたすが、細菌性肺炎との違いは膿性痰が出にくい点である。また、筋肉痛、頭痛、全身倦怠感などの全身症状を伴う。
これに対し、肺がんは気管支や肺胞の細胞ががん化し、さらにがん細胞は周りの組織を壊して増殖、進行していく。血液やリンパ液の流れに乗り、他の臓器へ転移することもある。症状は、初期は無症状が多いが、息切れ、息苦しさ、体重減少、痰や血の混じった痰が見られるほか、胸の痛みや背中の痛みなどもある。
ウイルス性肺炎と肺がんの説明だけでも、この2つを比較することに無理があるのが理解できるだろう。東京大学附属病院で多くのがん手術にも立ち会ってきた麹町皮ふ科・形成外科クリニック院長の苅部淳医師は、この報道を一笑する。
「まったくのデタラメでフェイクニュースに近い。台湾の一医師が根拠なく推測しているにすぎない。いまだほとんどわかっていないのが実情であり、情報を信用しないことが大切です」
しかしながら、そう推測する台湾の医師の根拠をあえて解析してもらった。
「この報道に関しては、東京大学病院の呼吸内科医師の友人ともディスカッションしましたが、ウイルス肺炎が進展してARDSになると、途中から線維化して、生き残っても線維化が残存することがあるという話のようです」
ARDSとは、急性呼吸窮迫症候群といい、肺炎や敗血症などが進んだ結果、重症の呼吸不全をきたす病気である。理論的には間違った考察ではないが、ウイルス性肺炎がそこまで進行すれば致命的といえる。つまり、実際には肺が繊維化するほどの症状では5年生存率を考えるまでもなく死に至る可能性が高いのだ。
逆説的に言えば、新型コロナウイルスによる肺炎から回復すれば、肺が繊維化するまでの症状ではないと考えてよいだろう。
新型コロナウイルスには2種類ある?
この報道に関しては、研究報告が出されている。北京大などの研究チームが中国の英文科学誌ナショナル・サイエンス・レビューで報告した研究結果では、新型コロナウイルスは2種類のタイプがあり、感染力が違う可能性があるという。
「この研究では、103例のウイルスのリボ核酸(RNA)を解析し、遺伝子を構成する塩基配列の違いを特定、ロイシンを持つL型が7割、セリンを持つS型が3割だったようです。L型は重症化し、S型は軽症の傾向があるという。武漢での感染者は、L型によるものが多かったと報告されています。しかし、あくまで症例報告というレベルであり、あくまで予測という段階です。この研究報告を鵜呑みにすることはできません」
新型コロナウイルスについては未知な部分も多く、世界中で研究が進められている。武田薬品工業は3月4日、新型コロナウイルス感染症の治療薬として免疫グロブリン製剤の開発を開始すると発表した。また、5日には大阪大大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学の森下竜一教授が、ワクチン製造に向けて開発を進めていることを発表した。
2002年11月に中国で非定型性肺炎の患者が報告され、32の国と地域へ感染が拡大したSARSは、翌03年の7月に終息宣言が出された。つまり、終息まで8カ月近い時間を要している。新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから約4カ月。終息にはまだ時間がかかると思われるが、我々にできるのは感染防止に努めることである。フェイクニュースやデマに躍らされず、落ち着いて生活することが大切である。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)