ドイツ在住のジャーナリストで翻訳家・金井ライコが、異国の地で自ら体験した失敗や感動を交え、両国の仕事にまつわる”常識”の違いを検証。ビジネスパーソン必読の“実践的”処世術である。GDPベースで世界3位(日本)、4位(ドイツ)と仲良く並び、経済規模も近い両国だが、仕事における慣習には大きな違いがある模様だ。
「私はまず4月5日から1週間、それから8月10日から3週間取るわ。この日程でどう?」
「私の休暇とちょっと重なるわ。少しずらせない?」
新年を迎えたばかりの1月2日。仕事始めのこの日に、ドイツの多くの会社ではこんな“打ち合わせ”が行われている。担当する仕事の打ち合わせよりも重要なこと。それは、「有給休暇を調整する」話し合いだ。
新年最初の重要会議、それは「有休調整」
年間30日以上もある有給休暇をどのように過ごすか。ドイツ人サラリーマンはそれに命を賭けていると言っても過言ではない。1年のうちに、誰がいつ休暇を取るかを同僚や上司と調整する。私の会社の場合は「自分が勝ち取った権利」として、社内カレンダーにそれぞれの休暇を記すのである。
ドイツでは与えられた年休を使い切るのが一般的で、消化していない人は上司から「ちゃんと休んでくれ。君が休まないと私の評価が下がるじゃないか」と叱責されるのが当たり前だ。
日本の会社員のように、同僚や上司の顔色を見ながら細々と取得して、「また今年も年休を消化できなかった」、「ああ、繰り越した有休が消えた」なんてことはまったくあり得ないことだ。
休暇に対する姿勢は従業員ばかりでなく、会社側も律儀だ。年休だけでなく、休日出勤した際の「振替休暇」もしっかりと取得するように要請され、差し迫った仕事よりも「振替休暇」の取得を会社から催促されることすらある。私が休日出勤した際、翌週には会社側から「○月×日までに振替休暇を必ず取得すること」と、取得期限まで明記した文書を手渡されたことには驚いた。
会社全体に休暇取得を歓迎する雰囲気がある
日本で働いていたときは、休暇を取るにはなぜか後ろめたさがつきまとった。だからドイツで働き始めたころもそうした思いがぬぐいきれず、休暇に入る前日、私はコソコソと職場を後にしようとした。「誰も話しかけないで」という私の思いとは裏腹に同僚から声がかかった。
振り返ると、同僚は「素敵な休暇を!」と満面の笑みで送り出してくれた。上司も同じように声をかけてくれた。ほんのちょっとしたことだが、この一言で私の休暇はさらに素晴らしいものになった。日本でも休暇の取得を求めるだけでなく、職場全体、会社全体がこうした雰囲気になれば、自然に休暇の取得はかなり進むのではないかと思う。
ドイツでも日本と同じように長期の休暇を取得するのは夏が多い。子どもの夏休みに合わせて、家族旅行を計画する。家族旅行といっても、多くの日本人のように2泊3日などではなく、数週間に及ぶ。そんな長い休暇を、ドイツ人がどのように過ごすのか紹介してみよう。