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日本の常識はドイツの非常識 第1回

日本流気遣いはトラブルの元凶

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ドイツ国内には古い城が点在する。(「写真素材 足成」より)

ドイツ在住のジャーナリストで翻訳家・金井ライコが、異国の地で自ら体験した失敗や感動を交え、両国の仕事にまつわる"常識"の違いを検証。ビジネスパーソン必読の、"実践的"処世術である。GDPベースで世界3位(日本)、4位(ドイツ)と仲良く並び、経済規模も近い両国だが、仕事における慣習には大きな違いがある模様だ。さて、あなたはドイツ派? それとも日本派?

「これは私の仕事よ。取らないで!」

 ドイツの飲料メーカー系企業で働くようになって、何度となく同僚に言われたのはこの一言だ。日本でなんとなくしていたことが、ドイツでは同僚ばかりか上司とも対立することに発展しかねない。日本では常識でも、ここドイツでは非常識となり、トラブルを引き起こしかねないものがあるのだ。

 仕事が早く終わって時間が空いてしまった日のこと。隣を見ると、同僚のおばさんはあくせくと品質検査を続けていた。終業時間になれば脱兎のごとく職場を立ち去るのがドイツ流。私はちょっと気をきかせたつもりで、ほほえみかけながら彼女が使い終えた検査機器を片づけようとしたそのときだった。

「私の仕事よ」

 機器に手を伸ばそうとしていた私の顔は、瞬時に凍りついた。「ああ、またやっちゃった......」。ここが日本なら、きっとこう言われただろう。「ありがとう。悪いわね」と。しかし、その場の私はまさしく「悪者」だった。別の日には、上司からも「僕の仕事を取らないでくれよ」とのお叱りを受けた。

生活でも労働でも"契約"がすべて

 ドイツでは採用時の雇用契約により、各個人の仕事内容がこと細かに決まっている。明記されている内容以外の仕事をしないのが、当然のことなのだ。自分の仕事を他の人に手伝ってもらっていたとなれば、自分の能力を疑われて、解雇の対象になりかねないという事情もある。

 日本では上司が「○○を買ってきて」とか「これもやってくれる?」なんて気楽に頼むことが多い。が、それもドイツ企業では命取りとなる。契約範囲に含まれていなければ、「それは契約書に書かれていません」と部下から冷たい視線を浴びせられる。仮に契約範囲を超える仕事をさせてしまった場合には、特別給与の支払いが伴うし、強要すれば訴えられるのは当然だ。

 生活に契約が根づいているドイツでは、職場でも契約は重要なのだ。日本で評価される、「自分で仕事を見つけられる人」や「気がきいてよく気がつく人」なんてドイツでは皆無。自分は自分。他人の仕事は関係ない。それでも企業はしごく上手く、実に効率的にまわっている。もし、労働時間を超えてもやらなければならない仕事があれば、それは高い給与をもらって仕事を管理している管理職の役割。もちろん「サービス残業」などという言葉は、ドイツ語には存在しないのである。