新型コロナウイルス感染拡大の影響で、飲食店や宿泊施設が大打撃を受けている。一方、あまり焦点が当てられていないのがブライダル・婚活関連業界だ。調査によると結婚式を控えた女性の3割が延期またはキャンセルを決定。
結婚式直前でのキャンセルは通常100%のキャンセル料金となるが、式場が配慮してキャンセル料を一部負担するケースも増えている。また、数カ月先の挙式をキャンセルする夫婦も増えており、業界全体への影響は大きい。
婚活イベントが次々とキャンセルに……
関係者筋によると、「婚活パーティー」「街コン」「相席屋」の3業態が特に影響を受けているという。これら3つの出会いはいずれも新型コロナウイルスに感染しやすい条件である「密閉・密集・密接」を満たしている。そのため、自然と参加者が減っている状況だ。
また、マッチングアプリを経由した出会いでも必然的にデートスポットは飲食店となる。飲食店での会話は必ずしも「密閉・密集・密接」を満たすとは限らないが、出会いそのものを自粛する男女が増えているのは事実だ。
相席屋では緊急対策としてビュッフェでの食事提供を中止、全従業員の手指消毒、食器の除菌を徹底すると宣言。大手婚活パーティー主催企業のシャンクレールグループも、参加者へマスクの着用と消毒を呼び掛けている。
しかし、これらの対策が顧客の心を変えるまでは至らないようだ。通常であれば、婚活パーティーで開催日が土日の会が空いていることは少ないが、現在はちらほらと空席が出始めている。今後、仮に主要都市部がロックダウンされれば実施が厳しくなるため、業界各所は戦々恐々だ。
婚活パーティーに「来た相手の神経を疑う」
婚活をする男女はどう考えているのだろうか。実際に婚活をしている女性は、こう語る。
「アプリで婚活していますが、どうせデートできないならその期間の会話がダレるので、やってられません。“婚活自粛”なんて婚活仲間と言い合っています」
また、別の女性もこう述べた。
「春だし、新しい出会いがあればいいなと思って婚活パーティーへ行こうか悩んでいましたが、こんな時にノコノコやってくる男性は、危機管理能力があると思えないから魅力的に思えないよなー。私が男性でも、こんな時に来た相手の神経疑うわ、と思ってやめました」
業界各所から、苦渋の声
婚活業界にとって、春は繁忙期。転居などで新しい出会いを求める男女が、一斉に婚活サービスへ登録する時期だ。その大事なピーク期を、新型コロナウイルスにつぶされてしまったかたちとなる。業界関係者はいう。
「東日本大震災の折には、婚活希望者が増加しました。危機感を抱くと、誰もが寄り添ってくれる相手を求めるからです。ですが新型コロナウイルスでは、不安ばかりが増幅する一方で、出会いのチャンスが奪われている。私たちにとってはつらい状況です。万が一にも自社から感染者が出てしまったら、社のダメージは計りしれません。経営やお客様のニーズを見ると、なんとしてでも開催したいのですが……」
確かに、東日本大震災の際には「震災をきっかけにこれまで以上に大事にしようと思った人間関係がある」と、女性の80%、男性の68%が回答した。多数のカップルが震災を機に結婚を決めた事例が増え「震災婚」という言葉が生まれたほどだ。
しかし、今回の新型コロナウイルスは事情が異なる。いくら寄り添うパートナーを求める男女が増えても、寄り添えば感染のリスクが増える。さながら、全身を針で覆われているために、寄り添うと相手を傷つけてしまう“ヤマアラシのジレンマ”を思わせる悲劇だ。
テクノロジーが出会いを救う?
そんななか、新しい婚活の兆しがある。マッチングアプリ「aeru.party」はオンライン通話での婚活パーティーを可能にした。分単位で切り替わる画面を使うと次々と新しい相手に出会え、個人情報を守ったまま通話できる。
関西の「結婚相談所Dash」では、会員へオンライン通話システムZoomを利用した出会いの場を提供している。Zoomでは1対1で話せる機能があるため、パーティーを主催したのちに1対1の時間を取ることも可能だ。
筆者も参加しているため手前味噌で恐縮だが、婚活・恋愛相談サービス大手「魔女のサバト」では、婚活相談イベントをオンライン化した。ゲストとして招く専門家もオンライン参加できるため、従来のセミナー会場を貸切るイベントよりも自由度の高いプログラムを実現している。
新型コロナウイルスによって打撃を受けても、チャンスをつかみ取る企業が存在する。ITが遅れているといわれてきたブライダル・婚活業界にも、ついに技術革新が訪れようとしている。
(文=トイアンナ/ライター)