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野村直之「AIなんか怖くない!」

GAFA、AI独占の脅威…心臓部=超高速ハードウェアの独占の可能性

文=野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員
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Google本社(「Wikipedia」より/Cristiano Tomas)

 本連載の前回(第4回)記事『 GAFA、個人の行動履歴を…』をお読みになった方は、グローバルIT巨人がAI時代に利益を独占してしまわないよう、国家が戦いを挑んでいる具体的なイメージを描くことができたと思います。ニューモノポリー。その行く末がAI時代の我々の幸福を相当程度左右してしまいそうです。

 善良に振る舞うことを社是としているGoogleも、経営者が代わったら、それを貫き通せる保証はありません。日本国憲法のように修正しにくい硬性憲法や三権分立の監視機構を社内にもっているわけではありませんから。株主の意向の変化も考えられます。また、一部の事業では現場マネージャーが独占に胡坐をかいて優越的地位を乱用する可能性も考えられるし、巨象が蟻を踏みつぶすように、意図せずに零細ベンチャーの芽を摘んだり競合を廃業に追い込んだりすることもあるでしょう。

新型コロナウイルス騒ぎで検査増や高額転売対抗に尽力するGAFA

 もっとも、彼らが緊急事態に際して市民を救うべく社会貢献に努める動きもあります。2020年3月には新型コロナウイルスのドライブスルー検査のためのスクリーニングを受けるためのWebサイト開発プロジェクトに、グーグルの1700人のエンジニアが取り組んでいるというニュースが流れました。トランプ米大統領は3月13日(現地時間)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を受けて国家非常事態を宣言した際に、本プロジェクトを紹介して、「グーグルに感謝したい」と演説しています。

 米国アマゾンは、大量の手指消毒剤等を買い占めて高額転売をしようとしていた者(日本でいえばマスク販売の諸田洋之静岡県議)を、それが違法な州では訴追に協力したり、それ以前にポリシー違反として販売停止やアカウント停止等に注力しています。日本のアマゾンや、フリマ、オークションサイトの動きは米国の同業者よりも鈍いような気もします。政府が国民生活安定緊急措置法に基づく政令で、マスクを対象に指定する以前に、規約違反などでアカウント停止された事例はどれだけあったでしょうか。

 元経産官僚で慶応大大学院の岸博幸教授は、マスクの高額転売について、「本来は(転売にかかわる)ネット企業が、社会的責任がありますから、自主規制すべきなんです。全然やらないから政府は規制せざるをえなかった。ネット企業には反省してほしい」とまで言っています。

 国民生活安定緊急措置法によれば、場の運営者が転売が行われていることを知りつつ(自社サイトの怪しいページを社員の誰も一度も見てないと証明するのは困難そうです)、手数料目当てに放置していれば、共犯としての刑事責任を問うこともできます。政令で指定された3月15日以後は、ネット運営企業の経営者が逮捕されるリスクもあります。GAFAより時価総額で2桁ほど小さい日本のネット企業とはいえ、社会的責任は同じ。体力差に負けず、AI活用による監視などでGAFA以上に果たしてくれることを期待します。

 なお、新型コロナウイルス関連で極力科学的に正しい内外の最新情報に考察、提言を加えて情報発信をフェイスブック(FB)で行っています。眺めてみて、必要と感じられたらご購読ください(友だちはリアル友人のみです)。「ノート」という作品発表サイトでも「AI幸福論」と題して、2020年2月以降、感染症関連の情報を発信しています。

AI開発競争には超高速ハードウェアが不可欠

 拙著『人工知能が変える仕事の未来』(日本経済新聞出版社)などのAI本に、AIの開花を支える超高速計算器の話が出てまいります。

“こんな数字があります。筆者が社会人1年生の時に開発チームの末席に加わった、NEC(日本電気)初のスーパーコンピュータSX-2の性能が1985年、1.3 G Flops(1秒間に浮動小数点演算13億回)でした。出荷時点で世界最高速。一方、2016年に、ディープラーニングの実験用に、100万円未満で買い求めたエヌビディア社のグラフィックボードGTX1080を4枚搭載したPCは、36 TFlops(1秒間に32bitの浮動小数点演算36兆回)という性能です。これは、2004年当時、第2位の5倍速でぶっちぎりの1位だったスーパーコン、NECの地球シミュレータより若干高速。SX-2の3万倍近い速度です。地球シミュレータの6年間のレンタル料は200億円近くに、巨額の保守費、電気代、ガス代(冷却用)が加わる。…

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 毎秒36兆回という速度は、1秒に赤道上空を7.5周という速度の光をもってして、1秒に僅か0.8μm、すなわち毛髪の太さの1/100しか進めない速度といえば実感できるでしょうか。その後、数年程度で、16bit演算ならその10倍以上、毎秒500兆回(0.5京回)を超える性能が100数10万円程度で手に入るようになっています”

 ハイエンド・ゲームのファンたちのお陰で大幅にコストダウンされたグラフィックボードの計算能力に、今日のAIの多くは支えられています。これらのボードは、本来グラフィック目的でしたから、実はAIに必要ない機能、ひいては多量の半導体も抱えています。だから、原理的にはもっとコストダウンできる。それ以上に重要なのは、同じ計算量あたりの消費電力です。AIに特化して無駄なく設計すれば、消費電力を桁違いに抑えられる。逆にいえば、同じ電力エネルギーで桁違いに高速に、多彩なAIを開発できることになります。

グーグル社が自社専用に量産するai専用ハードウェア

 2017年の前半にグーグル社が発表した第2世代のai専用ハードウェアを見てみましょう。

・2017年5月18日付gigazine記事『Googleの機械学習マシン「TPU」の第2世代登場、1ボード180TFLOPSで64台グリッドでは11.5PFLOPSに到達 』 

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 ハイエンドのグラフィックボードをご覧になったことのある方には、この写真の基板が実にシンプルで、低消費電力のように見えることでしょう。ところが、上記記事のタイトルのように、このボード1枚で、180TFlopsと、GTX1080の20倍の性能です。このボードを64枚束ねて「テラ」の1000倍「ペタ」の領域11.5PFlopsを達成しました。さらに翌年2018年の第3世代では、同程度のボードで8倍の性能となりました。

・2018年5月10日付gigazine記事『Googleが機械学習専用の第3世代プロセッサ「TPU3.0」を発表、冷却が追いつかず液冷システムまで導入する事態に 』

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 今度は、64枚束ねて、約100PFlops。これは、2011年に世界一のスーパーコンピューターとなった、理研と富士通の「京(けい)」の約10倍速。1秒間に10京回の演算が可能です。それも非常に安い値段、何桁も小さな消費電力で達成しています。

GAFA、BATによるai心臓部支配の可能性

 グーグルが突き抜けているとはいえますが、GAFA (Google, Amazon, Facebook, Apple)、BAT(Baidu, Alibaba, Tencent)は、それぞれAI用の専用ハードウェアをつくっています。

・2019年2月21日付日経bp総合研究所「ものづくり未来図」記事『GAFAから部品メーカーまで、AIチップ大混戦 』

 アマゾンは自社のクラウドコンピューティング基盤提供サービス用に、学習済みaiをハードウェア化しています。このような動きで特徴的なのは、彼らサービス事業者は、自社開発のハードウェアを外販しない戦略をとっていることです。独自の高度なaiの計算能力、スピードをサービスとして提供するために自社ハードウェアを開発し独占する。

 この戦略の恐ろしさを実感したのは、筆者がceoを務めるメタデータ株式会社の優秀なインターンの東大工学部生が、2018年に卒論のための実験をやっていたときのことです。彼は、総当たり的に学習パラメータの組み合わせをトライして一番精度がよくなったものを選ぶ自動チューニングを、遺伝アルゴリズムで実現するというアイディアの研究をやっていました。グーグルのauto-mlに対抗できるテーマです。学習パラメータの組み合わせを多数、いろいろ切り替えて多数回の学習を繰り返さないと研究が進みません。厖大な計算パワーが必要な卒研テーマです。

 手元で、GTX1080Tiという11.5TFlopsのボードで学習させたのと、グーグルが12時間分の計算まで無償提供していたクラウド機械学習の速度を比較したら、後者が10倍程度の速さでした。勝負になりません。結局、12時間ごとにデータを消去される苦労に耐えながらも、速度には代えられないということで、グーグルのクラウド機械学習に卒業研究が全面依存することとなりました。学問の自由、成否が一民間企業の思惑一つ(急に眼の玉が飛び出る価格にまで有料化したりされないという保証があるでしょうか?)に左右されるかもしれない、という状況に慄然としたわけです。他事業で得た利益による体力にものを言わせ、クラウド提供で価格破壊・価格支配をしかけたり、出荷先の国を恣意的にコントロールしたりもできますので。

AIの独占にどう対応するか

 BATをはじめとする中国勢も年間4兆円規模の巨額のAI投資を行っています。BATの3社とも自動運転の研究開発に莫大な投資をしていて、自動車産業にとって代わるMaaS (Mobility as a Service) の覇者たろうと、虎視眈々と狙っています。中央集権国家の中国だけに、道路側の知能化、すなわちクルマや乗員の不調に対応し安全に運転代行、停止などをさせる中央監視センターのオペレーションを研究したりして、本当に実現できる自動運転社会システムを、世界中の協力者とともに、開発しようとしています。他の企業や国、とくに日本にいる我々はどうしたら良いでしょうか。

 次回は、学習用のビッグデータ(SNSやECサイト上の個人の行動履歴などはその典型です)の独占の可能性と、日本がどう挽回できるかについて考察してみたいと思います。AI自体は怖くないけれど、その技術やデータが事実上独占されれば、極端な富の偏在が生まれ得る。そして、一部の分野、技術要素でもいいから世界一になれなかった国は収益をもっていかれ、AIユーザーとしては楽しくやれるものの、AIで勝利した国より相当貧しい、つつましい暮らしを強いられるかもしれない。でも、なんとか光明を見いだしてまいりたいと思います。

(文=野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員)

※本文は2020年3月21日までに執筆した内容です。

野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員)

野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員)

AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員。


1962年生まれ。1984年、東京大学工学部卒業、2002年、理学博士号取得(九州大学)。NECC&C研究所、ジャストシステム、法政大学、リコー勤務をへて、法政大学大学院客員教授。2005年、メタデータ(株)を創業。ビッグデータ分析、ソーシャル活用、各種人工知能応用ソリューションを提供。この間、米マサチューセッツ工科大学(MIT)人工知能研究所客員研究員。MITでは、「人工知能の父」マービン・ミンスキーと一時期同室。同じくMITの言語学者、ノーム・チョムスキーとも議論。ディープラーニングを支えるイメージネット(ImageNet)の基礎となったワードネット(WordNet)の活用研究に携わり、日本の第5世代コンピュータ開発機構ICOTからスピン・オフした知識ベース開発にも参加。日々、様々なソフトウェア開発に従事するとともに、産業、生活、行政、教育など、幅広く社会にAIを活用する問題に深い関心を持つ。 著作など:WordNet: An Electronic Lexical Database,edited by Christiane D. Fellbaum, MIT Press, 1998.(共著)他


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