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親会社・前田建設、子会社・前田道路へ敵対的TOBで巨額損失…“子”が捨て身の焦土作戦

文=編集部
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前田建設 HP」より

 前田道路は4月14日、東京・港区の品川プリンスホテルで臨時株主総会を開き、総額535億円(1株当たり650円)の特別配当を実施する議案を可決した。今回の特別配当はゼネコン準大手の前田建設工業によるTOB(株式公開買い付け)への対抗措置と位置付けられていた。TOBはすでに3月12日に成立。前田建設が持ち株比率を従来の24.71%から51.29%に引き上げて前田道路を子会社にした。

 しかし、臨時株主総会の権利行使の基準日は3月6日のため、同日時点の株主が議決権を行使できる。前田建設のTOB成立は基準日の後の3月12日だったため、前田建設の議決権は51.29%ではなく、24.71%にとどまった。

 臨時株主総会での議決権の行使比率は86%。賛成の比率は65%に達した。前田建設は多額の資金流出につながると特別配当に反対してきたが、前田道路との関係改善を重視して、委任状争奪戦には踏み込まなかった。大株主である海外の機関投資家などが賛成票を投じた。米議決権行使助言会社のインステイテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)やグラスルイスも賛成を推奨していた。

 前田建設は1月20日、道路舗装事業の更新需要の取り込みには連携強化が必要として、持ち分法適用会社の前田道路へのTOBを開始した、買付価格は1株3950円。発行済み株式の51%の取得を目指すとした。これに対して前田道路は、「前田建設が保有する前田道路の株式をすべて買い取り、資本関係を解消する提案をする」と取締役会で決議した。前田建設グループ内で「親子ゲンカ」が火を噴いた。

 前田道路は2月20日、今期配当の約6倍に相当する総額535億円の特別配当の実施を、4月14日に開催する臨時株主総会に諮る、と発表した。

 総資産の2割に当たる535億円もの特別配当の狙いは、TOBの撤回だ。前田道路のTOBの条件に「前田道路が資産の10%に当たる203億円超の配当をする場合、撤回する場合がある」と記されていた。前田道路の19年12月末時点の純資産は2093億円。特別配当はこれの25.6%に相当する。配当というかたちで多額の内部資金が外部に流出すれば、企業の価値に見合わない価格での買収になる。「減損リスクが高まり、TOBを撤回するかもしれない」と、前田道路は期待した。

 前田道路のTOB阻止策は焦土作戦と呼ばれるものだ。買収対象となった企業が、重要な資産(保有株式や不動産)や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減らし、魅力を失わせる手法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、領土を焼き尽くす軍事上の戦術名に由来する。

 前田建設は矛を収めなかった。前田建設は2月27日、この配当策を理由にTOBの期限を従来の3月4日から12日に延長した。同日、前田道路は二の矢を放った。記者会見をして、同業首位のNIPPOとの資本業務提携交渉に入るとした。

 NIPPOは石油精製最大手JXTGホールディングス傘下の道路舗装業界最大手。空港や高速道路など官庁の大型工事に強みを持つ。前田道路は業界2位で民間の小型工事を得意とする。道路舗装の1位のNIPPOと組むことで、前田建設を牽制する狙いがあった。だが、前田道路の抵抗むなしくTOBは成立した。前田建設は前田道路への議決権比率を24.71%から51.29%に高め、同社を連結子会社にした。

前田建設に巨額の減損損失の懸念

 今後は6月に予定されている前田道路の定時株主総会での役員人事が焦点となる。特別配当は前田建設にとって頭の痛い問題だ。前田建設は130億円程度を特別配当として受け取る一方、連結ベースで残りの400億円余が外部に流出することになる。

 特別配当により前田道路の純資産が535億円減るため、前田道路の企業価値は確実に目減りする。臨時株主総会で特別配当が可決した4月14日の前田道路の株価の終値は2014円(1円安)。一時、1980円(35円安)まで下げた。終値との比較で取得単価3950円のほぼ半値の水準である。前田建設はTOBに861億円を費やしており、巨額の減損損失を計上する可能性がある。

 前田建設の20年3月期の連結決算の売上高は前期比3.1%減の4770億円、営業利益は11.8%減の317億円、純利益は6.5%増の255億円の見込み。コロナの影響は織り込んでいない。前田道路の取得株式を減損処理して特別損失として計上するとなると、業績予想の下方修正もあり得る。

 前田建設が強制的に前田道路を子会社にしたことは、実に高い買い物になったようだ。東京マーケット(株式市場)は正直である。4月14日の前田建設の株価の終値は837円(17円安)。年初来高値(1月23日の1210円)より31%も安い。

(文=編集部)

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