安倍晋三首相が3月14日、新型コロナウイルスから「自らの身を守る行動を」と警戒を呼びかけていたのに、その翌日、妻の昭恵夫人は大分に旅行し、約50人の団体とともに大分県宇佐市の「宇佐神宮」に参拝したと「文春オンライン」(4月15日配信/文藝春秋)で報じられた。しかも、昭恵夫人はノーマスクの無警戒さだったという。
この参拝を主催したのは、医師の松久正氏だが、松久氏は「ドクタードルフィン」「変態ドクター」などと自称する人物である。おまけに、公式サイトでは<ドクタードルフィンの超高次元医学(診療)では、薬や手術というものを一切使いません>と説明しており、新型コロナウイルスについても、フェイスブックで次のように述べている。
<不安と恐怖が、ウィルスに対する愛と感謝に変わった途端、ウィルスは、目の前で、ブラックホールから、突然、喜んで、消え去ります>
こうした説明に私はうさんくさいものを感じ、「この医者、大丈夫かしら」と疑わずにはいられない。だが、昭恵夫人のほうから松久氏に連絡し、「コロナで予定が全部なくなっちゃったので、どこかへ行こうと思っていたんです。宇佐神宮へは前から行きたかった。私も参拝していいですか」と伝えたらしいので、惹きつけられるものがあったのだろう。いかにも、「変態コレクター」を自認している昭恵夫人らしい。
昭恵夫人は重症の「アントワネット症候群」
この連載で私は以前、危機感も自覚も想像力も欠如していて、現実否認と甘い現状認識が認められる人を「アントワネット症候群」と呼んでいると述べた。安倍首相夫妻は「アントワネット症候群」の典型だと思うが、妻の昭恵夫人のほうが重症のように見える。
とくに、自覚と想像力の欠如が致命的だ。首相夫人であれば、誰よりも率先して不要不急の外出を自粛しなければならないはずなのに、その自覚がない。そのうえ、万一自分が感染したら、夫である安倍首相にうつすかもしれず、その結果国民の生命を守るという任務に支障をきたしかねないことに考えが及ばないように見える。
イギリスのジョンソン首相は新型コロナウイルスに感染して入院し、一時はICU(集中治療室)に入るほど症状が悪化した。一方、安倍首相はジョンソン首相より年上だし、潰瘍性大腸炎という持病もある。どのような治療を安倍首相が受けているのか存じ上げず、あくまでも一般論として申し上げると、潰瘍性大腸炎の患者は、疾患活動性を抑えるために免疫制御治療を受けることが多い。当然、免疫力が低下するので、感染症リスク対策が人一倍必要になる。安倍首相も免疫制御治療を受けていれば、かなり気をつけなければならないはずだが、このことを昭恵夫人はきちんと認識しているのだろうか。
「アントワネット症候群」の人を変えるのは至難の業
昭恵夫人を見ていると、17世紀のフランスの名門貴族、ラ・ロシュフコーの「他人に迷惑をかけるはずがないと思っているとき、とかく迷惑をかけるものだ」という言葉を思い出す。昭恵夫人も、自分が夫に迷惑をかけているという自覚がないからこそ、結果的に夫を困らせるようなことを繰り返すのではないか。
これこそ「アントワネット症候群」の真骨頂だが、こういう人を変えるのは至難の業だ。というのも、自覚の欠如が「アントワネット症候群」の特徴の1つであり、自身のふるまいを決して振り返らないからだ。当然、反省も後悔もしない。その結果、夫の安倍首相を困らせるようなことを繰り返すわけで、この「反復強迫」は今後も続きそうである。
(文=片田珠美/精神科医)
参考文献
François de La Rochefoucauld “Maximes et Réflexions diverses” Garnier Flammarion 1977